ツメレンゲ、
もう随分昔から知る植物で、海外でも紹介されている日本を代表する多肉植物ですね。
またイワレンゲの斑入り種、” 富士 ”、” 鳳凰 ”、そして ” 金星 ” は美しい斑入り品で、栽培個体が最近飛躍的に増えたのは嬉しい事です。
また以前には広く紹介されていなかった斑入り品などが、入手出来るようになったことも嬉しい事です。
その反面、何やら交雑したのではないかと思われる個体を、あたかもその品種として販売しているケースが見受けられます。
以前を知っている者にとっては、違和感で仕方がない。
ここで簡単に(いや、訂正!詳しく)オロスタキスをオサライしてみましょう。
オロスタキス属植物は、開花、結実すると枯死する1稔性の植物です。
どの段階から入手栽培するかにもよるが、翌年または翌々年の夏には成熟品になるので、開花するタイプが一つ。
①その中に通常腋芽を全く出さない物と、②葉腋より枝を出し(ストロンではないもの)、中心の芽とその幾つか枝うった芽も同時に開花するタイプがある。
何れも開花、結実し個体が終わるので(希に枯死した株元に芽が残る事があるが、そのままでは大体枯れます)、基本的に実生するしか栽培維持が出来ない。
代表例として①は先に記した斑入り品を含む青白さが綺麗な中~大型種のイワレンゲ、②は大型種で基本種とされるゲンカイイワレンゲ、その変種のアオノイワレンゲ(広義)がそうです。
枝を打った芽が幾つもあるのが、お判りでしょうか。
この後中心を含む全てが開花、結実、枯死しました。
もう一つは増殖は大変良く、一般的に小型の種類が多く、腋芽で増える物でコモチイワレゲ、アオノイワレンゲ(広義)、ツメレンゲ等がそうです。
腋芽を多数出し中心の芽が開花サイズに達していれば開花し、種子を残し親芽は枯死するも腋芽達はそのまま残り、独立の芽となり新たに成長し株になるものです。
実生でしか維持出来ない物も、芯止めないし胴切りによって増殖は可能ですが、行うタイミングや方法によっては全てが開花してしまい、結果枯死してしまう事があります。
特に斑入り品を芯止めによって枝変わりを起こし、斑が逃げてしまい普通種に戻ってしまったりします。
また実生をしても親と同じ斑入り品の出現はまず無い(確率は極めて低い)ので、開花するずっと以前に芯止め、胴切りでクローンを維持しなくてはならず厄介です。
万が一開花の兆候が見られたら、すぐに芯止めを行って花芽が出なくなるまで(普通の芽が出てくるまで)芯止めを繰り返すしかないですが、開花せず枯死から脱出させる確率は五分五分と言うところです。
芯止めをする時の刃物または鋭利なものは、必ず清潔(細菌、ウィルスフリー)な物を使う事にしなくてはなりませんし、殺菌、消毒は不可欠です。
また使い廻しの際にも、1回1回(1個体1個体)殺菌、消毒をする。
また話が脱線気味なので、話を戻します。
でも ” 富士 ” をはじめイワレンゲの斑入り品は、よくぞ現代まで絶えずに受け継がれて来たと感心させられます。
以前に ” 富士 ” の増殖に失敗して開花、結実したので実生してみましたが、およそ9割以上が葉緑素を持たない発芽苗で数日で枯死し、残りの僅かなものは普通品で正常に育った経験があります。
現在流通するイワレンゲの殆どは、この ” 富士 ” から実生した物と枝変わり品が殆どで、野生品は皆無であると考えています。
また腋芽を出さないイワレンゲ、アオノイワレンゲ、一くくりのイワレンゲはもっぱら自家受粉し易いので、結実は非常に良いです。だけど交雑しないって言う事ではありません。
(余談)
実際にイワレンゲとアオノイワレンゲの中間(うっすら、時によく粉を吹いた灰緑色、イワレンゲとは違い青白さはない)の個体を見ます。
だからその個体から得た種子を実生すると分離して、イワレンゲとアオノイワレンゲが発生し中間も僅かながら発生するので、遺伝子の汚染が見られますから逸出は絶対に罪です。
話を戻します。
この様に栄養繁殖する物は、あえて実生をしなくても維持は出来るが、実生をしなくてはその種類を維持出来ない(非常に出来にくい)物は実生をするしかないのです。
ここで問題になるのが、多数の種類を栽培している場合に開花時期が殆ど同じなので交雑する事です。
上の画像は見事に?交雑した個体達で、維持だけが目的の実生としては失敗です。
維持したかった親はたった1個体で、その花穂より採取した種子を播種して得た8個体です。
これらの実生品を比較してみた画像で、枠でかこったものを維持したかったのですが、矢印が遠い個体ほど交雑度が高くなっています。
私はその品種やタイプで栽培観賞したいだけなので、基本的に実生は必要ない。
なので開花する年の株は抜き処分している。
可哀想だが、交雑や種子が飛んで良く似た別な鉢へ発生したりすれば、ラベリングしている意味はなくなるし、それよりも野生に(隣近所)に逸出させる事は決してやってはならないです。
植物を愛培する人間が持つ、道徳的礼儀です。
また話が脱線気味なので、元に戻します。
既にここで取り上げているのは、失敗例です。
複数品種を栽培していれば、交雑しない方が珍しいのです。
維持したい種類の開花と同じく、ちょうど昔から栽培していた中国由来の通称白雪ツメレンゲに花茎が伸びているものがあったが、抜くのを後回しにしてしまった。
当時非常に多忙を極め、不在にすることが多かった為気がついた時には既に遅かった。
白雪ツメレンゲの開花株は全て処分したが、維持したい種類は1個体のみだった為に種子を回収するしかなかったのです。
上の画像は殆ど白雪ツメレンゲそのもの言っても判らない交雑個体だが、下の画像の個体はちょうど両者の中間的な個体になっている。
2個体とも開花すると思われ、白雪ツメレンゲにそっくりな方は腋芽を出していているが、中間的な個体では腋芽は確認出来ないです。
両方とも成長すると共に茎が伸び立ち上がっている。
この性質は多くの種類に見られる性質ですが、白雪ツメレンゲにも見られます。
しかし維持したかった種類は、いかなるときもその性質や脇芽は見られません。
よって実生した中の特徴のある個体だけを残し、処分しなくてはなりません。
この様な交雑品を自分のみで楽しんでいるなら百歩譲って良しとしても、何時どの様な事で自分の手から放れてしまうかわからないので非常に危険で、存在自体色々な意味で罪です。
不覚にも私の所で起きた交雑と同じ事が、現在オロスタキス属を多種類栽培していると思われる方々の所で起きていると思われます。
栽培している場所のあらゆる所に実生苗が発芽し、その中に他の産地由来の物や同じ種類同士だが見た目に変化があるもの(葉色や大きさ)、又は今回の様な多種との交雑した実生苗が出来てしまっていると考えます。
最近見るなかでほぼ確実に交雑品が流通しているのは、やはり白雪ツメレンゲ、アオノイワレンゲ、また怪しいのはピーチ・パーフェクトなど、ツメレンゲに関しては各産地を名前にを呼んだものがありますが、既に意味の無いものとなっています。
同じ学名上での基本種アオノイワレンゲ(イワレンゲも含む)やツメレンゲ(色々な産地のもの)はお互い簡単に交雑します。
何か園芸的な価値(黒に近い褐色のツメレンゲとか、覆輪葉のツメレンゲなど何か今までに無く他の物とは容易に区別できる特徴を持った個体等)のあるものを作り出す目的(育種)なら実生も良いとは思います。
それも厳しい目で選別し、選別落ちは決して世の中に出してはいけない、これを徹底しているなら。
多肉植物に限らず植物販売(商売、そうでない場合関係なく)において、選別落ちの物を小遣い欲しさに世の中に出しているのを良く見ます。
その様な事をするから、海外から ” 園芸 ” の評価が下がる原因を作っているのです。
自国の素晴らしい文化である " ENGEI " の価値をいっそう下げている事に貢献しているのは、残念な事です。
急いて書き綴ったので、また読み返しておかしな所は改定します。
一先ずこの辺で。
2023・4・6
お問い合わせがありましたので、これら交雑個体のその後になります。
10個体全てをとある機関へ寄贈し調べてもらう事になっていましたが、所々の事情で叶わず自身の所で管理する事に。
白雪ツメレンゲに最もよく似たタイプは種子が採れましたが、最も大きくなった明らかな交雑個体と交雑を疑わせる個体からは、全く結実が無く全てシイナでした。
これは何を意味するのか。
また販売元の韓国の業者の圃場でも交雑が起きている様で、輸入したかた方から購入したもにも既に交雑した個体があった事が、栽培し結実の状態を確認し確かめることが判りました。
何れも1代雑種であり、ツメレンゲとはかなりの距離があるものと思われます。
2023・11・30
こちらは良くして頂いている方より、輸入したての小さな苗を定植したものです。
当初マルガリティフォリアの苗だと思っていましたが、栽培していくうちにやはりツメレンゲまたはフィンブリアタとの交雑であると断定した。
輸入元での栽培風景を見る限り、同じ敷地に隣同士が栽培されていて多数の花茎が上がっているのを見ると、簡単に交雑してしまうのが判る。
オロスタキス愛好者が多種を栽培維持する為の、ヒントを見る事象だ。
種子でしか栽培維持出来ない物は残念ながら、愛好者の棚では一種類しか栽培出来ない事を意味する。
そうでなければ自然に屋外で花を咲かせないで、昆虫が入らない様な隔離された環境で種子を得るしかない。
ツメレンゲやそのタイプは開花したものは抜き捨てて、栄養繁殖した物のみを維持すれば良いが、
アオノイワレンゲ、イワレンゲをはじめとする一稔草は容易に交雑する。