喜右衛門園芸

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クラッスラ・コルムナリス 〜 麗人 基本種と亜種の関係を栽培から考察してみた。

Crassula columnaris 、国内でも古くから知られた種で麗人と言う高貴な流通名を持つ物です。

10数年前も基本種が稀に販売される程度の貴重品で、塊根性クラッスラを除いて1、2位を争う高級品でしょう。

私はこのコルムナリスは大好きで、販売されているのを見かけては時折購入し楽しんでいて、過去に10個体近くは栽培観察しました。

最近見かけなくなってしまい残念です。

現在は数年前より僅かにこの名前の種子を入手する事ができる為、実生個体を栽培しています。

しかし昔苗で見かけたコルムナリスとこの実生個体は、成長するにつれ何かが違うと言う違和感が生まれ、この種類がどの様な物なのかぼんやりですが判って来つつあります。

 

ここで判っている事実を書いておこうかと思います。

この種は基本種コルムナリスと亜種プロリフェラがあり、自生地の南部に基本種が、北部に亜種が分布するとあるがどうもそう単純ではない様です。

Crassula columnaris ssp. columnaris

                                  ssp. prolifera

栽培に関しても、難易度が高いや開花までは時間を要するとか、詳しく書かれた物を見る機会は極端に少ない。

これを踏まえてクラッスラ・コルムナリスとはどの様な植物なのかを少し詳しく見てみようと思う。

 

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基本種コルムナリス 

当時の栽培画像を探したが見つからないのが残念だが、唯一見つかったのがこの画像で開花時の画像は引き続き探してみようと思う。

 

茎は生涯一本の単茎で開花後に枯死する一稔性多年草です。

開花までには長い時間を要するが、自生は無論だが栽培下でも発芽からの成長が緩慢な為で、栽培は特に難しいところはない様に思われます。

しかし輸入カット苗や抜き苗で購入した場合、その成長段階が開花サイズに達している苗は、入手した時期にもよるが大抵その年の開花シーズン、若しくは翌年の開花シーズンに開花し枯死してしまいます。

要因はハッキリしてはいませんが、花芽形成の生理に水分が起因すると思われ、自生下栽培下ともその時期の摂取量が花芽形成のトリガーになっているのではないかと思っています。

実際文献では頻繁または辛めの水やりをしてはいけないと書かれていて、脱水状態と言うか絶食をキープするとありました。

となるとカット苗や抜き苗では少なくとも発根や活着する必要がある為、水やりは不可欠で長く維持するのは難しくなります。

唯一脱水状態をキープしながらじっくり栽培する為には、実生するしかないし実生床から移植をするなら直径数ミリから10mmの初期でないと無理と言う事になろう。

言い換えれば幼苗以外の移植は短命、即ち開花して枯死するのが早いので不可と言う事になると思います。

逆手に取れば複数個体を同時に開花させたい場合には、同じステージの成苗を同じく水やりすれば理論上同時に開花するはずです。

入手方法がどうしても抜き苗になってしまう場合が多いですが、栽培するのでは無く管理し種子を得る為だけに入手すると思ってください。

種子を得る為のヒントでは無いでしょうか。

 

このような事もあって、栽培が難しいと誤って認識された要因になった可能性があります。

けっして弱い物でも無いが加湿はやはり禁物で、特に初夏から初秋の休眠にあたる高温期の水やりはあっと言う間に溶けてしまう事がある。

私は過去に雨がかかり溶けた事がありますので、注意が必要です。

国内栽培下での花期は、基本種コルムナリスで夏の終わりから秋初めより花芽形成で、秋半ばには開花しています。

因みに後述する亜種プロリフェラはそれよりも遅いです。

この事を現地に当てはめると、基本種は春咲きで亜種は夏咲きと花期が違うと言う事になります。

これは両者のハッキリした違いの一つです。

 

花色は花弁内側外側共に乳白色〜極薄い白黄色で、時に外側に着色があるが極薄い。

花数は大変多くボール状、日照も多少影響するが開花時に植物体茎は殆どまたは僅かしか伸びない。

余談だが昔に僅かながら流通していた、基本種コルムナリスは実生苗だったのか?それとも、、。

どこで聞いたか忘れましたが、胴切りで増やすと聞いた事がありました。

画像の個体で30mmあまりだが、大きい物では幅、高さとも50mm近い大きさで開花する。

画像でも一つは花芽が出来ているが、もう一つは未だ開花には至っていない。

高さは20mm程であったと思うが、葉と葉の間つまり節間は全く見えずぎっしりと葉が重なっている物を胴切りなどできる物でしょうか。

仮に胴切りをやろうとする場合には、あえて光量を溶けない程度調節して、節間を伸ばし茎が僅かに見える状態にしないと無理ですね。

その位葉と葉は密着しています。

それがカッコいい植物なんですがね。

真意の程は未だに私は知らない。

 

 

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亜種プロリフェラ

複数の茎を持って群生し一稔性多年草である事は基本種と同じだが、開花した茎は枯死するがその他の未開花の芽が複数あるため同一個体は枯死せずに残り増殖する。

これはクラッスラ属に一般的な事です。

基本種と同じくカットや抜き苗をした場合に開花を促進する傾向にあるが、開花のまでのスピードよりも脇芽をだして増殖する方が早いので、開花によって枯死する事はあまりない様に思います。

また実生から開花までに要する時間は、栽培下ではおおよそ3年程でそれをを過ぎた秋中盤から花芽形成が始まる。

その後栽培環境によるが、無加温で翌年の2月下旬頃より開花が始まります。

画像は実生によるもので、亜種プロリフェラの典型的なタイプで未だ芽分けやカットをした事はないので、もう暫くしたらやってみたいと思います。

花色は薄い黄色やクリーム色〜山吹色または赤味のある黄色〜濃い朱色まで変化に富むが、花弁の内側は外側に比べ薄くクリーム色から橙色、外側がそれより濃い。

だから開花前では外側が目立つ為、基本種よりも有色で濃い印象です。

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開花時期には茎の伸長があり基本種とは随分と印象が異なっている。

花数は基本種より随分と少なく一つ一つは小さく、ロート状または半球状に着き稀にボール状。

 

その他にも基本種と亜種では葉の形状をはじめ花の各部の形状やサイズ等違いはあるが、近年の多肉ブームで各地の自生画像や栽培画像が見られる事により、コルムナリスと言う植物には3つのタイプがある事が判った。

 

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亜種プロリフェラの典型タイプですが、基本種コルムナリスで種子を入手したった1本が発芽して育った物です。

5mm程に成長した頃に、亜種プロリフェラだと確信した為札は基本種コルムナリスになったままですが、そこからまる2年で開花に至ってます。

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次に同じく基本種コルムナリスとして入手した種子による実生達ですが、上記の典型タイプ亜種プロリフェラと同時期の実生で、入手元は異なっていますが丸3年で開花に至っています。

この種子を提供している方は以前より海外より種子を入手し、自ら栽培観察、大変詳しく考察されていて感銘を受けますが、種子を提供する以上自分の目で確かめた事や事実を購入者に種子と共に提供している方で信用に値します。

輸入による物なのは判っていて、ドイツでの販売があるのを見かけました。

その先が不明ですが、安定して供給出来ている様なのでガーデンシードでは無いかと思われます。

と言うと亜種は栽培下で比較的維持出来ると言う事になります。

この種子を譲って頂いた方はもう随分前に開花させていますから、種子を得ている可能性がありますから機会があればそのあたりも聞いてみたいと思います。

その方も考察していますが、それと並行して違う視点で事実を元に仮説と考察をしてみたいと思います。

 

観察と仮説

昔国内でも僅かながら流通していたコルムナリスは紛れもなく典型的基本種であったが、それは長らくこのタイプしか種子や苗が流通してこなかったと思われます。

国外は判りませんが、国内の園芸本や雑誌等で亜種の存在が登場するのは、ここ20年位の事ではないでしょうか。

南アフリカのクラッスラ属の文献に写真が掲載されているのが、2000年代前半なんで、間違っていたらすみません。

流通したと言っても極僅かかで、性質上コンスタントな流通をしづらい植物(他家受粉性で種子を得るのは複数個体で同じく開花させる必要があるから)で、国内(外?)の基本種は絶えたと思われますが、、、、。

その代わり現在国内外で流通している物は、亜種のプロリフェラと思われる物が流通している。

これは亜種の性質上の事で先にも書いた通りで、栽培下で種子を得られ個体数を増やす事が出来るからです。

しかし上記の亜種プロリフェラの実生品の画像を見ても判る様に、典型的な物と違う個体があるのがお判りだろうか。

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これです、

両者は同じ購入種子から出た物だが、形態に随分と差がある。

この要因は先の方も考察されている通り、出現の確率から供給元での種子混入であろうと私も思います。

典型的な亜種プロリフェラは極僅かで、圧倒的にそれとは違うタイプが成長する。

コルムナリスとして種子がリリースされたのだから当然だが、海外の出元も典型的亜種とは何か違うのは理解していて種類としてのコルムナリスと言う事にし、種子を販売したものと私は考えます。

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茎の下部に1、2芽の花芽を持たない芽が出ているが、このタイプの物は典型的亜種プロリフェラの様に脇芽を持っていない事の方が多い。

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またこんな風に茎の下部または上部の葉腋から側枝を出す事がよくあり、それらの枝は全て花芽になり開花する。

これらの事から推察するに

①典型的基本種、単茎、花期に茎は少ししか伸びない、葉腋からも側枝を全く出さない。 

花は白に近いクリームで亜種と比べて大き花数は多い、一稔性多年草の物で花期は春咲き(国内では秋)

②典型的亜種、複数茎で群生、花期に茎が伸び 上がり葉腋から側枝を僅かに出し花茎となる。 花は黄色〜赤黄色で花数少なく基本種より小さい。

実生から開花までの間に多数の芽をマット状に形成し、開花した茎は枯れるが同一株は存続しその後も生き続ける、多年草で花期は秋(国内では初冬から初春)

②ー1 基本種と亜種を繋ぐ様な中間的な物、単茎または複数茎となるも亜種の様に群生することは無く、精々1〜3芽程度。

主軸は立ち上がり葉腋から側枝を出す物、出さない物とあるが出す物の方が多く、やがて花茎となり花が咲く。

花は黄色〜赤黄色で基本種より小さく花数は典型的亜種より多い。

開花した茎は枯死するが、茎元に別な芽が少数ある物はその後も生き続けると思うが、無い物は基本種同様に寿命を迎える。

思うがとしたのは未だ経験した事がない為で、今後どの様になるのか観察したいと思います。

こちらも亜種プロリフェラ同様の花期です。

 

こうしてみると①基本種の形質を持った物の真逆にあるのが②亜種で、その中間の様な個体群②ー1がある事が、沢山の自生画像から判ります。

恐らく自生地も住み分けていて現在栽培されてるのが②と②ー1の物と思われます。

産地の棲み分けは当然ですが典型的な基本種や亜種以外の形質(②ー1)を持つ様々な個体は、分類的にどの様な位置付けなんでしょうか?

どちらかと言えば基本種コルムナリスに含めるのは間違いで、性質は亜種に近い。

但し亜種プロリフェラでは無いと思いますので、別亜種の記載が必要では無いかと私は思います。

亜種プロリフェラとの違いは極僅かではあるが、タイプとして片付けられない差異があると私は考えます。

 

基本種は南部に亜種は北方種と文献には書かれていますが、果たしてそうでしょうか?

確かにそうだとしても、両者とは違う性質、形質を物個体群があるので、各々は元は同じでも独自の進化をしているのでしょう。

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南北に連続した変異、いわゆるタイプである可能性も捨てきれない。

実際栽培をしてみた経験と考察を重ねた結果、亜種プロリフェラ、基本種コルムナリスとは別な亜種では無いのか?と言う仮説に行きつきます。

私が知らないだけで、ドイツあたりから論文がでているかもしれないが、今後更なる研究ぐ進むことを期待します。

 

2024・2・25

暖かい日がありましたので、花が咲き出してしまいました。

また寒くなったので先進みは一旦止まっていますが、見てみましょう。

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やはり花を見ても基本種コルムナリスでは無く亜種プロリフェラの花ですが、典型的亜種プロリフェラの姿では無いので困ってしまいますね。

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最初が典型的ではないものと次が典型的亜種プロリフェラの花です。

全く差異はないですが、個体の大きさに比例して花数は少ないです。

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何だか主軸が倒れてしまい曲がったままで開花していますが、陽当たりが少し悪かったのでは無いかと思っています。

この先も経過観察をしてみます。

 

2024・3・16

寒い日が続いていますが、それなりに開花が進みご覧の通りになりました。

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亜種プロリフェラで主軸の先にしか花芽は無いので、全ての花が咲いた状態です。

やはり花数は数えられる数で半球状です。

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一方今の所亜種プロリフェラ?なのかなぁって言うタイプの物達も開花が進みましたが、明らかに花数は多くボール状です。

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また何と言っても主軸の頂頭に出来る物とは別に、小型の花序が葉腋に出来るのが特徴的です。

この葉腋に出来る花序は頂頭の直ぐ下に出来る事もあれば根元の方に出来る場合もり、個体で違いがありますが生理的な事だと思います。

そもそも栽培下では自生地の様な過酷な全天では無い為、主軸は伸びる傾向があり画像の様に中頃に出来ている様に見えてしまいますが、本来はもっと主軸は詰まっていますから様子は少し違います。

しかし現地画像でも明らかに主軸の伸長はありますから、栽培下だからと言う訳ではない。

最終的には基本種コルムナリスも主軸の伸長はあるが、種子も熟して来て葉も枯れ込んでいよいよ最期の段階になって来た時の事で、亜種を含めたこれらの個体群の様に開花前から主軸の伸長があるのとは明らかに違う。

 

じゃぁ、この個体群が亜種プロリフェラなのかと言えば私は違うと思っていて、他に特徴として葉の形状や群生はせず時折根元付近に脇芽を形成したりしなかったりと不安定な事、植物体は亜種の2倍以上と大柄な事でも違いが明らかです。

また分布もとても気になるところで、基本種が南部に亜種が北部にと言うのは文献で確認しているので間違いは無いと思いますが、このタイプの個体群はどの様な分布をしているのか大変興味があります。

南部北部と言う単純な話では無いと思いますので、コルムナリスと言う特異な植物全体を理解する上でとても重要な事でしょう。

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夜間になると特に強い芳香を放つので蛾の一種が複数来て活発に食事をしていました。

あまりよく撮れませんでしたが、花から花へ細い口を入れていました。

基本種コルムナリスの香りは若干青臭い感じで、私は良い香りとまでは思わなかったですが、こちらの個体達と亜種プロリフェラは良い柑橘系の香りがしています。

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朝になり一匹休んでいたので、ここにしばらく滞在する様です。

 

当初ガーデンシードと思われましたので基本種と亜種との交雑を疑ったのですが、明らかな自生地の画像が多数見られるのと、基本種とは花期が全く異なっているのでその考えは捨てました。

しかしこのタイプの個体群と亜種プロリフェラの花期は栽培環境では被っている為、自生地でも差があまり無いと想像します。

この様な事がこのタイプが知られながら、亜種プロリフェラの様だとして片づけられている理由かも知れませんね。

花期が同じと言う事は栽培下では容易に交雑すると思われますが、自生地において互いに何らかの(地理的またはそれ以外の)距離があると思われ、この様なタイプが存在するのは事実です。

 

2024・3・24

まだまだ寒い日が続いて天気も雪や雨、晴れたら強風と穏やかさとはいきません。

それでも植物達は確実に動きを見せてくれて、楽しみな時期です。

家での唯一の亜種プロリフェラですが、花の盛りを過ぎたので子房の様子を確認する為に花弁を取り去りました。

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4数性の花の為全てに4と言う数があり、子房も4つから成るのが判ると思います。

その子房は見事に膨らんで受粉したのが確認できますが、これは純粋なプロリフェラで受粉したのではなく、上記の同時に開花した別なタイプと交雑したものと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Conophytum bilobum ssp. gracilistylum

広義ビロブムは最も分布が広く幾つも亜種、変種があり、厳密に言えばその一帯に自生している個体毎に葉姿は違い、どの個体も実に美しく個性的です。

私はこのビロブムのセクションは一番好みで、子供の頃にホームセンターでリトプスとビロブム(恐らく園芸交配品)を見た時の衝撃は、今でも色褪せない。

機会がある度に色々なビロブムを見てきたが、実生されたり交雑した園芸品、原種の実生品、どれも面白いものです。

園芸交配品が様々あるのは当然ですが、原種にも個性的な物が多々あります。

葉姿は様々だが、光沢のある無し、斑点(ドット、窓)の多少や表皮に微細な毛がありビロード状な物、荒い毛のある物、実に様々です。

 

今回紹介するのは、亜種グラキリスティルムです。

もう10年以上前になりますが、2枚の葉を持つ苗を入手する機会を得て家にやって来たわけですが、これがなかなか難なコノフィツムでした。

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広義ビロブムは一般的に丈夫なコノフィツムですが、この亜種グラキリスティルムは非常に弱く貧弱なビロブムです。

弱いと言うのは性質も少しありますが、一番は加湿にとても敏感だと言う事です。

かと思えば休眠期にカラカラにしてしまうと細根が枯死してしまうので、休眠明けに調子を崩してしまう事もよくある。

また茎が細くコシが無い、根も細く葉数を増やし群生させる様な事にはしにくく、栽培には向かない事ばかり。

家に来た翌シーズン、更にその次のシーズンと2年連続で挿し木になりました。

 

ただし若干産地の違いで比較的に栽培し易い物もあるようですが、定かではありません。

葉姿にも違いがありますが、概ねシルエットは女性的な曲線でキールが赤くなる物もあり、裂葉の先も丸味のある物から鋭尖な物、全体に大型または小型のタイプが古くから知られています。

花はビロブムには比較的少数派のピンク系で、白に近い薄い色から少し濃い物まで、これで育てやすかったらなぁ〜って思っていました。

画像の個体は葉数の少ない頃は最大40mm程にはなりますが、この状態で葉の大きさは30mmまたはそれ以下で、全体に柔らかで本当に貧弱なビロブムです。

よくぞここまで枯死せずに居たものですが、神経質に管理した訳でもなく、いつ調子を崩しても仕方が無い半分諦めた様な放任気味なお陰では無いかと思っています。

花も栽培してから3年目位から毎年咲いていますが、早咲きでまともに見た事は1、2回です。

 

今シーズンから栽培植物の一部を除いていろいろと処分している最中で、寒さや私用が多くなかな思う様に行ってないですが、このビロブムが目に入りこれは処分するのはやめました。

思い立ってこの先何方かの栽培する為に少しだけ参考になればと、記事を書いてみたいと思いましたがどうでしょう。

来季はまた花が見られる保証は無くどうなるかは運次第、今度こそ開花している姿を画像に収めたいと思っている。

 

 

 

古い銘品、フォーカリア・白波怒涛

現在も人気なフォーカリアだが、古い物にも良い物があり今でも残っています。

栽培個体は非常に少ないですが、お持ちの方は大切にして出来たら同好会の交換会や販売サイト等に出したりして、国内の栽培個体増量のに努めて頂きたいと思います。

抱えてはあらゆるアクシデントにより絶種していまいますから。

多くの愛好者が栽培を楽しんでいれば、全てが無くなる事は避けられるんではないでしょうか。

まぁ、既に失われた物を惜しんでも仕方がありませんから、今残っている物を大切にしていって下さい。

今回はかつて見たもので、あまり紹介されていない銘品を紹介してみます。

フォーカリア・白波怒涛です。

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地模様ですが、銀河、大雪渓の比ではないですね。

しかも肌のグリーンは他のフォーカリアより明るく瑞々しいので、この地模様に青さがあります。f:id:S-kiemon:20231210095904p:image

御覧の通り葉裏にも模様が廻り込んでいて、私が知る限りこの様なフォーカリアは他に知りません。

恐らくですが実生をしても、ここまでの地模様はでないものと思いますが、お持ちの方は是非試してみて下さい。

 

 

あなたに惹かれる • 4 デンジソウ 埼玉県野生絶滅

デンジソウは元々南方系の植物で水生のシダ植物で、全国で絶滅危惧指定、または絶滅種になっている。

 

そのデンジソウの存在が古くから知られている場所で埼玉県内唯一の宝泉寺池自生地が、今シーズンをもって消滅する。

平成に入り再度発見されて以降様々な方達の手で保存されて来た場所は私有地で、宅地開発され最後の低地が埋め立てられる為だ。

しかもこれまで残っていた場所以外の元耕地や低地、池の水面は県道建設の為に少しずつ土地が埋め立てられ、池周辺環境は大きく変貌した。

 

埼玉県久喜市鷲宮町八浦上の宝泉寺池は、30年弱前何回か通りかかった頃池一帯はヨシが覆っていて、水面が見える池があり大部分は浅く広い水湿地のだったのを記憶している。

周囲の低地は耕地として利用されていて、田圃になっていた所もあった。

実際は水深のある水面の外側の広い範囲を浅い水湿地でヨシが覆い、更にその外側が湿地となっていて地形からかなり広い低地だったと推察される。

直ぐ脇を交通量の多い県道が走っていて、池は釣りを楽しむ釣り場で隣接する様に遊戯場がある。

その県道から落下したのかヨシの水湿地に白い乗用車、確かセダンが長らくあったのが印象的だった。

現在その場所は遊戯場の拡張した駐車場として埋め立てられているが、この駐車場や残った池の水面をかすめる形で新たな県道建設の計画(桜の土手で有名な幸手権現堂桜堤と東北道加須I.C.を結ぶ道路)が以前から進行していたのも事実で、この宝泉寺池周辺の土地をめぐる様々な思惑が垣間見える。

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中央のわだちがパワーショベルが走った辺りが最後に残った自生地跡で、奥に遊戯場と左脇は近年宅地開発され埋め立てられたのと、右がそれ以前に田圃だった場所が2m弱高埋め立てられたのが見える。

 

最後の低地が埋め立てられ自生地消滅どなるが、これまでも残っている場所以外の元耕地や低地は、少しずつ埋め立てられながら自生環境は小さくなっていった。

とくにコロナ需要でここ3年で宅地開発は急増した為、この辺りも影響を受けた形で私有地と言うこともあり売却され開発となった。

 

余談ですが、

家を買う側としては、土地の来歴を見ればこの様な土地を買うべきでは無いと断言できますが、世の中の方々の中には有事のリスクを知っても購入する方もいるので(価格で)、各自の判断にまかせるしかありません。

 

話しをもどすと、

この自生記録より発見から70年余りで消滅となった訳だが、逆によくこれまで残り続けてくれたし、有志で集まった会や地域ボランティア団体、様々な方々の尽力には感謝しかない。

この場を借りて、ありがとうございました。

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フェンスの向こうが遊戯場駐車場、手前は自生地跡。

 

この自生地の個体群は、過去に市民の庭先や公共施設に危険分散されていた経緯もあるが、今回を期に正式に場所を指定して分散保存される。

今後それまでこの地を保全に尽力された方々が、分散された地の管理、保全を担うとなった様です。

だから完全消滅では無く野生絶滅となった。

詳しい事は各会の記事や魅力会が時系列を詳細に記事にされているので是非読んでほしい。

全国的に自生地消滅の原因としては珍しくない事例で、またかと言う気持ちでいっぱいで人間活動と環境を壊さないと言う事は基本両立しないのだと、あらためて思うと共に仕方が無いと言ういつもながらの一言で終わりとなる。

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昔から断る毎に考える事がある。

生き物には人間の付けた識別する為の名前、学問では世界共通のラテン語表記の学名がある。

しかしながら同じ種類の生き物には何処にあろうと何処に居ようとも、その名前で呼ばれたり識別されたりする。 

それには一定の評価や価値があるはず。

それがあるはずなら、日本で無くなっても居なくなっても地球の何処かに居たならあったなら、評価されるはず。

でも必ずしもそうではない。

何故だろうか?

それはあるべき所にあるべき姿で、居てほしいし有るべきだからではないか。

折角だからデンジソウを例にすれば、ある所にあってこそその評価や価値があるのです。

デンジソウは日本各地、アムール川から西の大陸各地に有るけど、宝泉寺池にあったデンジソウは、宝泉寺池に有ってこそ評価、価値が有るのです。

やっぱりそこに有る物を、

そこに有る姿そのものを、

自然の一部であるデンジソウを、

しかも宝泉寺池のデンジソウを見ることの出来る極めて贅沢この上無い、

この姿に最高の、変え難い価値が有ると思う。

 

仕方が無いと言う言葉で最後を飾るには何とも寂しいが、宝泉寺池のデンジソウが一個人手でなく公共の施設で保存される事になったのが、せめてもの慰みでしょうか。

地元有志の方々にお願いしたい事があります。

沢山の目撃者やそれと同等の明確な事実の元保存されれた後、是非今度は自生地付近に戻し再生を考えてほしいと切に望みます。

その理由は先に述べた通りで、一個人がいろいろな植物を栽培保存など出来るものでは無いし、多数の人の手で行う事です。

避難させその後に自生地を継続復活させた事例は、残念ながら植物では限りなく少ない。

成功例の一つになってください。

 

2023年、埼玉県内最後と思われる宝泉寺池自生地は消滅しました事を記して終わりにする。

 

 

 

あなたに惹かれる・3 ヒメシロアサザ

一期一会と言う言葉は若い頃から好きで、真剣に向き合い謙虚な気持と感謝でこの時この瞬間と向き合う、固有の誰にも邪魔されない、邪魔されることの無い時間の事です。

私は植物に限らず出逢いをそう思ってきたし、実際に殆どがその後その様な機会は無い。

 

ただそう言う事とある意味近い偶然の出逢いと言うものがある。

これは何時訪れるのか全く予期せず突然やってくる。

いや、やって行くだ。

相手はその時その場所にずっと居て、こちらがその時その場所に行かなければめぐり逢う事は無い場合です。

それはやはり幸運な事です。

 

ヒメシロアサザと言う植物を知っているだろうか。

本日その出逢いがあった。

現在は自生地を減らし絶滅危惧種にも指定されていて、急速に各地で姿を消している水生植物だ。

元々出現頻度は少ない植物ですが、自生地での繁殖力は悪く無い事が多い。

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アサザも同じ運命を辿っていてとても寂しい限りだが、アサザと名が付くがヒメシロアサザアサザに比べかなり小型で変異がある。

アサザは出逢ったことが湖沼、池のみだがヒメシロアサザは溜池の端に少しだけ在るような感じど水田近くの水路や水田雑草となっている姿だった。

明らかにヒツジグサアサザとは住み分けていると思われました。

また各地の自生地毎で栄養状態では無い見た目の変異があり、研究者も各地のサンプルを用いた研究で指摘している。

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今回出逢った個体群ですが、数キロ離れた一帯にも自生地があり、行ったことはないが水路と水田だそうだ。

かつて一帯の地域には無数に自生が点在していたものと推察しますが、その点在の多くはカモやサギ等の鳥に種子が運ばれたと考えられます。

過去に台風による河川氾濫があったり水難のあった一帯でもある為、その限りでは無いかもしれない。

最近の除草剤は素晴らしい効果がある反面、こうした水田雑草には無力で一度消滅してしまうと埋土種子の様なシードバンクを持っていない植物にとっては絶滅を意味します。

このヒメシロアサザの越冬方法がまた不明だそうで、ガガブタの様にハッキリとした越冬芽を作らないし、開花して非常に良く結実する種子生産は良い事である為、種子による物と推察されているようです。 

 

同自生地の植物を少し紹介します。
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イボクサです、この一帯でもあまり見なくなっています。

えぇぇ〜!イボクサなんか幾らでもあるけど、なぁ〜んて声が聞こえてきますが、ホントそんな感じなんですよ。

幾らでもあるのが何時の間にか一帯から消えてしまうなんて、珍しくありませんね、寂しい事ですが。

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キカシグサです。

このキカシグサも変異がありますね。

他の部位もありますが、よく判るのは草姿の大きさです。

15cm以上の大型な物と5cm以下の小型な物、勿論栄養状態もあるのですが、大型の物から採種し栄養状態を変えて播種、非常に小型の物を同様に実験しても両者の形質は変わらなかった。

やはり大型の物、小型な物はそれぞれ遺伝的に固定されていて一年草で種子繁殖なので、一帯にはある程度固有の個体群、少なくともその辺の田圃では同じ大型なキカシグサ、または小型な、または中型みたいに出現するのを観察している。

こちらの個体は非常に小型で葉の一枚の長さは最大4mm、特徴である葉縁に透明な部分があるが、肉眼ではやっと見える程度です。

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中央の立っているのがホソバヒメミソハギです。

こちらは偶に見かけますが、疎らに自生していて密に生えている事は無いですね。

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こちらはアメリアゼナで外来水田雑草です。

ここには在来種のアゼナも自生していてますが、時期に取って代わられてしまう可能性があります。 

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コキクモです。

キクモと良く似ていて水性生育の場合パット見で見分けるのは中々難しいですが、秋に水を落とした水田に画像の様に陸上葉になっている事で見分けが付きます。

キクモは全体を密生した細毛が覆っている為艶消し肌で濃い緑色、コキクモは細毛は目立たずやや艶がある明るい緑色です。

ストレスがかかると真っ赤に紅葉した時は、よく見ないとなりませんがね。

 

ヒメシロアサザの自生地は現在非常に少なくなっている様で、自生しているが風前の灯的な状況にある様です。

然しながら埋土種子が残っていて、何かの好条件になった時に偶然蔓延る事があるかもしれませんから、完全に消滅したとは言い難い場合もある。

しかし宅地造成で埋め立てられた場合、そこを掘り返す事は皆無である為、その場合幾ら埋土種子が残っていたにせよ絶滅を意味します。

だから現状が昔と変わっていない場合微かな期待は出来るが、埋め立てとなって建物が建つともう元通りにはならない。

一度絶滅したと思われた植物が復活した事例はあるが、色々な地域にある隔離集団が復活した話は殆ど皆無で人知れず消滅している事は寂しい事だ。

 

2023・12・3

近くを通る用事があったので、現在の様子を観察してみました。

近くには全国的に増えている外来種で迷惑な、オオフサモが青々としています。

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アレロパシー効果が強く、水質もかなり悪い環境にも強いので優先種になってしまい、在来の水草を消滅させてしまう迷惑なものです。

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ありましたね、

この前に発見した時は稲刈りが終わっていた頃で、今年は暖かかった為にその刈られた所が更に伸び未だ稲刈りをしていない様な状態でした。

なので耕地は現在はしっかりと田おこし状態になって乾燥しています。

自生している所はそれがなされない為、一年中湿った所だからヒメシロアサザは残っているのでしょう。

ここも安定してしているとは言えませんので、耕地が放棄されれば乾燥化が一気に進み絶えてしまうと思います。

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種子の確認は出来ませんでしたが、春に発芽の確認をしたいと思います。

やはりハッキリとした冬芽を作っているわけでは無く、ストロンで栄養繁殖した芽も同じ状態です。

抜いて根の状態も見てみましたが、生育期との差は認められませんでした。

外見での違いと言えば葉が下面にそっくりかえっている位でしょうか。

引き続き冬季の観察を続けてみて、ヒメシロアサザの越冬を見ていこうと思います。

 

 

 

 

 

 

彼岸花 〜 国内で近年人気のリコリス

御盆から初秋の花として様々な園芸品種も多く、近年は様々コレクションして畑に植えたり庭に植えたりする方々が増えて、人気のリコリスに就いて少し書いてみようかと思います。

 

古くから曼珠沙華と言われながら、かたや死人花として長らく縁起の悪い花として呼ばれていました。

墓地の片隅やお寺の境内によく植えられていたので、その様に形容されてしまったのだろう。

その頃は鮮やかな朱赤で雌雄シベが著しく吐出した花を輪生させた、ラディアタ種のみでその全てが栄養繁殖のクローンだったと思うが、何故か稔性の無い3倍体である事が判っています。

しかし全国に広まったラディアタ種ですが、芽変りで先祖返りの2倍体の稔性のある個体が見つかったりしている。

私はその先祖返り個体を見た事は無いが、大陸の物と比べたい興味がある。

何故国内に3倍体ばかりが広まったのか、それには多くの人間の手が関与しているのは明白で、その多くは仏教信仰者の手が多く関わっていたのではないか。

大陸では2倍体の種子が出来る物ばかりだが、植物体は一周り以上小さくミノールと言う亜種扱いで、キツネノカミソリ程の大きさと聞きます。

庭植えのまたは畑の境界などにはとても良い植物ですね、暑さ寒さに強く手間いらずなところが素晴らしい。

 

さて人気のリコリスだが、あいにく私はリコリスには昔からあまり興味が無く、最近頂いた交配種とキツネノカミソリしか栽培していない。

栽培とは名ばかりで何も管理していないが、植えたらそこから時期になれば花は咲くし、葉は出て気が付けば休眠している。

キツネノカミソリは実生で、今ではかなりの株になっているが、交配種は頂いた翌々年に開花し今年は花茎が7本あがっている。

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直射下では青い色は目立たず、日陰では良い色の様に見える。

これはヒラオブルー、リコリス#251、海外名はブルーパールと言う交配種で、元は育種家であり学者の平尾博士が見出した物で、アメリカの育種家に出したのが流通の始まりとある。

海外では人気のリコリスで、またたく間に広まった。

平尾博士は大陸から様々なリコリスを収集しそれらを使い育種していたと思うが、収集の過程で入ったものなのか、育種の過程で出たものなのかはっきりしない。

ただこの交配種の両親が判明していて、スプレンゲリー種と夏水仙の名で古くから栽培されるスクアミゲラ種の雑種とされているので、育種過程で偶発的に出たものかもしれない。f:id:S-kiemon:20230920124044j:image

もう一方の方親にインカルナタと表記されている場合もありますが、両方の方親とされている物も元来の原種と言うより雑種起源の栄養繁殖個体とされている。

雑種起源の植物体の稔性に就いても、雑種なので花粉が死んでいたり種子が出来ない等必ず何か障害を持っている為直接の子孫は残せない。

しかし雌は正常であれば他の種類の花粉を受粉すれば交雑して種子を得られ、雄が正常であれば他の種類に花粉が運ばれれば交雑し種子を得られます。

野生のこうした雑種由来の個体群は、かつて生育地が近かった頃のなごりですが、現在は互いに離れているので交雑する機会は減ったと思われます。

逆に庭の植物や庭園、半野生状態で植栽されている為交雑品が誕生する機会が多くなったかもしれません。

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ヒラオブルーの花を観察すると、雄しべは正常の様で花粉を噴いているが(他の種類の正常な雌しべに付けて受粉するかを確かめなければ判らない)、雌しべは死んでいて、柱頭は貧弱な物です。 

ヒラオブルーの花粉を使った交配が行われていても、もう結果が出ていても良い様な気がしますが、その様な情報は見受けられ無い。

先にも書いた様にスプレンゲリー、特に夏水仙のスクアミゲラ、インカルナタは国内では8月お盆明けには開花してしまう早咲き種なので、他の9月の御彼岸以降に続々と開花する種とは交配し難いのが原因かもしれませんね。

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今シーズンは暑さのせいで彼岸花は開花が2〜3週間遅れましたが、ヒラオブルーも遅れたので何時もよりブルーの色が良く出た様な気がします。

画像は日陰になった夕方の撮影でしたから濃く写っていますが、実際はブルーの部分は極薄い水色の様な色でカメラせいですから、ビックリしない様に。

でもこんな色合いの物が出来たら素晴らしいですよね。

 

 

 

カキ仔の帝冠で入手したサボテン

帝冠〜オブゴレニア・デネグリイ、一属一種として有名でストロンボカクタス、菊水と共に古くから栽培されています。

この帝冠は以前からいつか栽培してみたいと思っていたサボテンだったが、なかなか手が出なかった。

最近になり実生苗が多く出回り購入の機会を狙っていたところ、何か少し変わった帝冠が出ていたので購入することにしました。

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カキ仔でしたが、細工をして鉢に伏せて置いたら難なく発根して葉色も良くなり、何回か開花していいました。

しかしながらこんなに大きくしてからカキ仔にしなくても良いような、、、。

疣の感じが少し違う、短葉(疣)なだけなのか通常の個体とは見た目が違う。

花も観察し調べてみたが、帝冠の花でした。

発根して水を吸う様になれば変わって来ると思っていたが、変わったのは正気を取り戻して色艶が良くなったのみ、その物は何も変わっていない。

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何か大疣の菊水でも交雑したのではないかと疑いたくなるが、原種を栽培してそこから採取、実生をしている栽培品には、交雑した物や交雑したのか疑わしい物、原種と見分けの付かない様な交雑品も流通しているので、怪しい限りです。

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私はこの個体が交雑品であったとしても、鑑賞するには非常に優れた物の様に思えるのですが、由来が判らない。

恐らく実生間もない物を無数に接ぎ木した物である事は違いないと思うが、国内でされた物では無いようです。

それは入手元が販売している他の植物達の殆どが流行りのベアルート苗、根を整理され株元からバッサリ落とされた物、カキ仔ばかり。

国内ではそこまでする必要は無いですから、輸入品である事は違い無いですが、その他全く判らない。

この兄弟と思われる数個体が同時期に販売されていたのも気になる所で、この個体と全く区別出来ない物でした。

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またカキ仔として流通する事を期待しながら、栽培を続け採種して見たいと思います。

またこの個体に関する情報提供をお待ちしております。

 

 

 

 

あなたに惹かれる・2 ホシクサ

四半世紀以上前になりますが、

ほしくさを見に行くと言ったら 、

「え〜、なにそれ〜、干し草〜、そんなの見てどうするのぉ〜、どこの牧場にいくの〜?」

嘘のような本当の話をされた事があります。

 

当時はちょっと足を延せば簡単にホシクサ属植物は見る事が出来、都内でも幾つか自生地があり見る事が出来た。

植物に興味を持った頃は様々な植物を観察しに出歩いていたが、特に水辺は好きなフィールドでありその一つに水田をはじめ湿地には大変よく通いました。

だから水田雑草と呼ばれる植物は大好きで、現在では簡単に見る事が出来ない様な植物達を随分と見る事が出来た。

どの種類も甲乙付け難く、水位の変化で皆美しいそれぞれがそれぞれの育ち方をしていて、何とも癒されたものです。

水田雑草を始めとする湿性植物で、特殊な種以外は除き大半は現地で見る事が出来たし、その他多数の現状不明植物、絶滅危惧種をフィールドで観察出来た体験は、私の人生に於いて何事にも代え難く生涯の良い思い出となっている。

また当時私がその様なフィールドワーカーの年少者だった頃、同じ様な事をしていた同世代の人間には誰一人遭わなかったが、先人方先輩の歳になって世の中も変わった現在から当時を振り返ると、何時の時代も私と同じ様な事をしている方々は居るのだと感じるし、過去より現在の方がその人口は明らかに多いのは喜ばしい。

だが、その大半が単なる栽培目的の最終的には金銭目的でフィールドに出ているだけの人間達であるのが非常に残念で、やはり色々な意味で道徳的緊張を持った人を形成するには、教育が如何に大切なのかがわかった。

 

話を戻すと、

 

水田雑草を始めとする湿性植物に限って言うと、通ったまたは見た場所(100の単位で)の8割は消失し、耕地放棄、圃場整備、作付け転換、造成等で見る影もないのは、寂しく残念な気持でいっぱいだ。

 

全国にある私のフィールドにはその後一度も訪れていない。

当時も一期一会と覚悟を決めてフィールドへ行っていたが、現在は衛星画像を簡単に見る事が出来るし、画像データがある場所なら水平方向でその場に立った様に見れるので、現在を簡単に把握出来てしまう。

私が訪れた翌年絶滅してしまった植物も幾つかあるが、大半はその後かなり近年まで自生していたと思うが、いや思いたい。

当時私も多くの先人方より、私が現在持っている気持ちと全く同じ話を私にされたのを思い出すと、いつの時代も先をいく人々は昔の話を懐かしみながら、現状をどうする事も出来ず諦めの気持ちだったのだと感じる。

私も何時の間にか先人方と同じ道を辿っている自分に気付き、あきらめと嘆きの日々です。

何でもかんでも現在が判ってしまう事は、美しかった思い出をブチ壊す何とも精神衛生上極めて悪い事で、個人にとって知らなくても良い事もあるのでそれ以降検索する事は止めた。

 

さて今回はそのホシクサ属の最も広く分布し、科の和名にもなっているEriocaulon cinereum ホシクサを取り上げます。

かなり前に近くの商業施設に行った際、隣の田圃にホシクサやあまり見なくなった他の水田雑草があったので、こんな場所に未だ残っているのは珍しいし、嬉しくなった。

きっと除草剤を使っておらず、自分の家で食べる為だけの田圃ではないのか?

って考えを巡らせた。

その時期は稲刈りも終わったばかりで、 ホシクサを含む水田雑草はあらかた踏まれて綺麗な状態ではなかったが、いつか稲刈り前にまた訪れてみようと思った。

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酷暑の中買い物ついでに見に行き、健在なのが嬉しかった。

気掛かりなのは、何時まで稲作をしてもらえるのか?地主は恐らく既に高齢のはず、商業施設や住宅街の中にある水田の運命は暗い。

近隣にこの様なホシクサを始めとする水田雑草が出現する田圃は皆無と思うと、また来季見れる事を祈る気持ちで、毎年が一期一会の対話なんだなぁと、なんともやるせない一日になった。

 

 

 

 

 

コリファンタ・象牙丸で観察した動く雄しべ

シャボテンとして古くから栽培されている物の一つで、流通名象牙丸の名でしたしまれているコリファンタ・エレファンティデンスがあります。

実生から育てると大きくなるまでにはそれなりに時間がかかりますが、斑入り品、棘なし、短棘、大疣等の変り物が出たりする事があるので、種子が採れたら蒔かない手はない。

その点一つ変わった物が出たら大きく育てて、棘の直近から発生する仔を採取して挿せば、多数のクローンを得られ、実生よりも数倍早く開花させられる。

とは言っても自然栽培での開花までの時間は、挿し仔で4、5年、促成栽培で3年、実生となるおよそ7、8年はかかると思われます。

開花が夏〜秋にかけてだとすると、受粉してから果実が収穫出来るまでおよそ7〜8ヶ月かかります。

受粉した後、果実は植物体内で育ち翌年の春遅くに出てきます。

出てくると言うより、新しい疣が中心から展開しながら一緒に押し出されるといった感じで。

その果実から種子を取り出して播種してもよいですが、取り蒔きをしても発芽は翌年だと聞いたので、そのまま保存して更に翌年の春先に縮れた果実から種子を取り出し、殺菌剤を使用後に播種しました。

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水を吸った種子は急激に大きく育ち、殻を破って豆の様なサボテンが出てきて発芽です。

少し細長いこの豆は、他の植物で言うと双葉みたいな役目をしていて、暫くその状態を過ごした後に画像の様な小さな棘を持った疣がそこから成長してきて、赤ちゃんサボテンになります。

だから赤ちゃんサボテンになるまでに受粉してから2年を要し、開花の親にするにはやはり10年近くは覚悟しなくてはなりません。(加温なしの自然栽培)

 

さて本題の動く雄しべですが、蜜腺を目当に来た昆虫に確実に花粉を付ける、いや花粉だらけにしたい様にかなり早いスピードで動くのです。

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画像は開花したばかりの花のアップですが、中心の雌しべは未だ平開せず立っています。

その周囲には花粉を噴いている雄しべがありますね。

この雄しべから別な開花している象牙丸に受粉させる為、花粉を採取したいと筆で触ると急に下の画像の様になる訳です。f:id:S-kiemon:20230831124242j:image

お判りでしょうか、

立って少し外側に開いていた雄しべは、螺旋状に雌しべの根元を覆ってしまいます。

この締まった雄しべは一定時間は戻りませんから、中に閉じ込められた昆虫はかなりもがかないと外には出られない為、花粉だらけになると思われます。

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なんか面白かったので、記事にしてみました。

 

カンザシキリンソウ と ヒメキリンソウ 〜 キリンソウ属 考察・1

はじめに

私はベンケイソ科Crassulaceaeは好きで興味があります。

このベンケイソウ科をウィキペディアで検索していただければ、この科の多様性に驚かされるに違い無いと思います。

直接の有用性は無いものの、多肉植物として栽培されている物が多く、世界的に人気な事を見れば間接的な有用性は非常にある。

 

その昔、東京大学名誉教授の佐竹義輔先生のご自宅を訪問してお話を伺う機会があり、その話の中で先生も仰っておられた学者の名を私はハッキリと記憶している。

近年の植物学者において、最高の頭脳と私は思っている大場秀章東京大学名誉教授の代表的研究に、ベンケイソウ科植物がある。

その事もあってセダム属からキリンソウのグループが分離されたのは、興味をひかれる出来事でした。

中央アジアから極東に至るまでの仲間を、セダム属から分離してキリンソウ属Phedimusとして一応落ち着いているが、我々の馴染みのあるキリンソウでさえ個体群の変異なのか亜種、変種または別種なのか、見た目で種を分ける材料は乏しい。

キリンソウは染色体数に変異があり、西日本に高次倍体の集団が多い事が知られている。

しかしその事と見た目の違いは、必ずしもリンクしていない。

国内に自生するキリンソウは学名上基本種の変種とされているが、では基本種とはどのようなものか?

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良い画像が無くステージが違うので比較には適さないが、葉の形態は確かに違いがある。

国内にも自生するホソバキリンソウが学名上の基本的なタイプで大陸に広く分布するが、今一つ明瞭な区別がつかないタイプも存在します。

ホソバキリンソウとして分けられる数々の個体群の中にも変異があり、国内キリンソウ、つまり学名上  var. floribundus の葉が細めのタイプであったり、ハッキリとそれとは形態や生理が異なる個体であったり、特に栽培品では困難な事が良くある。

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国内では広義aizoon種のみであるが、その中でも生理に違いがあるし考えれば考えるほどよく判らなくなってしまう。

我々が見て判っているのは、生体を観察した時に確かに形態、生理に違いがある、と言う事です。

 

しかしながら今日も大陸では局所的に新種が報告されていて、国内のキリンソウ達とは容姿がかけ離れている。 

中央アジアに広く分布しているグループと、東アジアに分布している広義aizoon種を結びつけると思われる新種も報告されている。

今年に入って、国内、海外の研究者達と共著でキリンソウ属の遺伝的伝播に関しての大変興味深い論文が出され、私が疑問視していた事、やっぱりと納得する様な素晴らしい論文が出て、大変興味深く読んだ。

形態分類である程度は判るが、やはり遺伝的情報での位置付けでないと判らない事の方が多くあるようだ。

 

Phedimus フェディムス属が一般の我々にも徐々に認識されつつありますが、我々の馴染みのある広義aizoonとその近縁種、中央アジアから極東にかけて分布するグループとは、植物の成り立ちにかなりの隔たりがある様に思える。

今後また再編されるのか、どうなのか、興味は尽きない。

この辺りの考察はまた別な機会に触れてみたいと思います。

 

 

 

今回はいつか書きたいと思っていた、カンザシキリンソウとヒメキリンソウの違いを栽培を通して見てみたいと思います。

ヒメキリンソウは正式に記載された明瞭な種だが、カンザシキリンソウと言う植物はあまり馴染みのない植物ではないでしょうか。

正式な記載は知る限り無く、どの様に誕生し現在に至るのか等未知な植物です。

当初借葉標本から生育良好のヒメキリンソウではないか?ヒメキリンソウの亜種ではないか?いや独立種では?、色々な考察があったと思うが、未だに証拠探しの途中の様です。

正式に記載するには国内をはじめ近隣国に自生するキリンソウ属の膨大な標本を閲覧、比較検討し新種としての証拠集めの必要があるが、多肉質植物体の借葉標本では形態分類には向かず詳細な生の違いが判りにくい為、なかなか困難だと思います。

 

※広義aizoon種とは東アジアに分布する基本種アイズーンと国内種、大陸で記載された既存の種を指すもので、国内種で言うとホソバキリンソウ(国内のキリンソウ  aizoon var. floribundusも含む)、エゾキリンソウ、ヒメキリンソウで、国外ではキリンソウ、オオバキリンソウやイヌキリンソウ、ケキリンソウ(和名がある物だけ抜粋)等を纏めた物を指す。

 

※文中に時折表現している広義キリンソウとは、国内のキリンソウと呼ばれ自生する基本的なタイプ以外に、地域や個体群により様々な変異を示すので、それら全てを含めた物を指します。

 

カンザシキリンソウ

栽培からの観察

この名前を知ったのは20年程前で、その頃は丁度植物から距離をおいていたこともあり、初耳だったのでこんな名前のキリンソウがあるのかぁ?と調べた。

調べたが学名は未だ種名が決まっておらず、未記載種で名前の由来等は調べきれなかった。

Phedimus sp. nov.

カンザシと言うのだから開花したときの姿や植物体の大きさ等、簪に見立てた事から来てるのだろうと推察した。

キリンソウ属全般開花時期には茎下部付近の葉は枯れて脱落している事がよくあり、花、苞葉、茎上茎の葉、棒状になった茎下部の姿とその大きさが、丁度カンザシ(簪)に例えられたのでしょう。

その後しばらくしてカンザシキリンソウを観察する機会を得た私は、栽培を通して他のキリンソウ属植物との性質や生理の違いについて、特にヒメキリンソウとの関係について調べてみたいと考えました。

 

カンザシキリンソウは地元の方のツテを頼って、自生地の種子を極少量送って頂き実生した。

入手した種子の結実が極端になくシイナばかりだったが、極少量の結実種子があり数本の苗を得る事が出来たのは幸いでした。

画像で野生状態は見ていたが、実物を見るのは初見で興味深く観察した。

2年目を迎えた頃広義キリンソウとの違いが出てきて、3年目で開花を迎えました。

その後大きな株にする事が出来、挿し木、葉挿し、実生とで増殖させ更に観察を続けました。

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半日陰は勿論陽当りでも栽培出来、真夏に遮光なし雨ざらしの環境でも枯れることはありませんが(日焼けはあります)、暖地での栽培ではキリンソウ属全般に起こる高温傷害がよくあります。

最も顕著なのは成長点の生育不良や花の不開花です。

それは長時間の直射があり気温が高くなる頃に傷害が出てくる傾向にあります。

ただ今一つハッキリと外気温に起因しているのか判っていませんが、その傾向にあるのは確かで毎年必ず出ます。

直射はあるが短時間で、後は明るい場所が長く続くような場所が特に暖地の栽培には適している様に思います。

そう言っても陽当りである程度馴らしたキリンソウを元に実生し得た実生個体の中に、一定数の障害の出ない個体もありますから、高温障害なのかなぁ?って言うふうに思っています。

確かに芽出して暫くはその様な障害はなく綺麗な姿ですが、開花に近づく頃(大体5月の上旬)には出始めてきます。

キリンソウ属は多肉質の葉を持っていますが実際乾燥は嫌い(乾燥気味でも栽培は可能)、湿った半日陰の場所で冷涼を好む植物です。

それなのに何故?ベンケイソウ科植物は多肉質の葉を持つ物が多いのか?

多肉質になったのは乾燥に耐える為だと思っている考えが、思い込みによるものなのかもしれませんね。

本来は暖地で平地の栽培には向かないし、陽当りの植物ではないです。

 

 

下の画像は半日陰の栽培で野生の姿に近い育ち方をしたものです。

株元付近の芽出した頃の葉は枯れて茎は横に倒れ、葉の付いている茎の先端辺りが斜上しています。

傾斜地等に自生している物はミセバヤの様に下垂している事も多々あります。

○で囲った所が根元です。

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これとは違って陽当りで栽培したものはガッシリとして、葉と葉の節間が詰まり葉の形状も違って姿は変わります。

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実生で当歳は直立する事が多いですが、その後成長に伴い茎が増えると同じくして茎は寝て、立派な塊茎を形成し地表付近に現れます。

また根元が塊茎となる事は広義キリンソウに見られる特徴と同じですが、自生地の画像を見る限り栽培の様に塊茎から多数の茎は出ておらず、数本の茎が出ているだけです。

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次に花の様子では、広義キリンソウと同様で集散花序で成長度合いにもよりますが、花数はそれなりにあります。

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花の大きさは8〜12mmほど、花弁先は尖り全体に星形の花で薄い黄色から少し山吹色です。

特徴的なのは花粉が入っている葯包の色は橙〜朱色をしており、裂開後急速に退色し花粉が飛び出します。

葯包が明らかに色づくのは、国内では他にヒメキリンソウしかありません。

上記の開花画像は陽当りでのもので時に乾燥にも耐えた鉢の栽培品ですが、乾燥する事が無い路地植えの半日陰で割と自生地に近い環境だと思っている物の、開花間近の画像がありましたので紹介します。

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よく育った花序をしていて、広義キリンソウによく似ています。

葉の縁に鈍い鋸歯がありますが、目立たず形状は倒卵形です。

 

次に葉の付き方についてですが、対生または互生と文献でなっていて、多数の生体を観察して判った事もあるので紹介したいと思うが、あくまで栽培下の事としたい。

実際借葉標本は栽培品では無く野生採集品であるため、上記の文献通りの葉の付き方をしているかもしれないからです。

その位慎重に見ないとキリンソウ属をはじめ多肉質の植物は環境での変化が大きい。

 

特に陽当りの良い場所の物たちは節間が詰まり判りにくいが、互生しています。

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しかし①〜④ではどうみても対生しているとしか思えません。

どの様な条件で対生になったり互生したりするのか、不明です。

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①〜⑥は対生と互生が混じっていますが、皆対生に見えるのではないでしょうか。

確かにそう見えるところはあるのですが、互生もあります。

対生モドキとも言える様な。
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こちらは半日陰の場所で2〜3時間は直射があたりますが、後は明るい影での栽培の場合です。

これならハッキリと互生しているのは判りますね。

対生が観察出来た場合もあります。f:id:S-kiemon:20230814070344j:imagef:id:S-kiemon:20230814070411j:image

実生の当歳を含めた若い個体では対生傾向で、開花に達してない若い個体では根元に近い葉でその傾向にある。

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画像は実生当歳でほぼ全てにおいて対生を示し、その後暫く特に上部の葉でも対生です。

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これも開花には至らない若い個体ですが、①では互生していて②では対生を示している。

成長段階で対生と互生が混在している。

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上から茎を見た時に対生、互生共に輪生になり、節間の短くなる上部で判りやすい。

開花する場合の集散花序直下の葉は特に大きく互生しているが、これは花序を包む苞葉の約目をしている葉と思われ茎葉とは違うが、茎葉と何ら変わらない葉がある為、明確に区別出来るものではないのかもしれない。

 

葉一枚の大きさは最大長さ41mm幅24mmに達したが、栽培では根張や陽当りで変わるため表現しにくい。

一般的に栽培では鉢内に根が張る為のスペースがある場合葉が大きくなる傾向にあり、葉数が増し根張が強くなる、所謂鉢から植物体を抜くと根鉢が出来て土が崩れない様な場合は、植物体、葉共に小さくなる傾向だ。

それは予めその年の芽出し時の状況で決まってくる。

小さく締まって根張の強い植物体で、その年の成長が止まった後に植え替えたとしても、そこから大きな葉が出る成長は示さない。

もし大きな葉を出すとすれば翌年の成長からです。

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広義キリンソウの変異、変種や地域変種からカンザシキリンソウを見た場合、やはり私は独立種と見る事が出来ると考えます。

当初ヒメキリンソウの亜種、変種の考えがあった。

それは葉の付き方や葯包の色等からであったが、栽培を通して考察したのは植物体の性質はむしろ小型の広義キリンソウに近く、私は未だ栽培した事が無いが、テカリダケキリンソウとして広く流通する物と性質が似ている様に思います。

機会があれば光岳産と言われるそのキリンソウと、比較をしてみたいと考えています。

ただ葯包の色は突然変異で出る様なものでは無い様に思われ、理由はわかりませんがこれはヒメキリンソウが関係しているのではないか。

四国山地に広義キリンソウの自生もあるし、分布域が重なっている訳ではないがヒメキリンソウも自生する。

遠い昔に広義キリンソウとヒメキリンソウとの雑種が誕生し、それがカンザシキリンソウではないのかと想像したくなりますが、飛躍しすぎでしょうか。

実際キリンソウ属は雑種が報告されていますから、満更否定も出来ない様な気もする。

この後に書きますヒメキリンソウの生育地の環境は、広義キリンソウとカンザシキリンソウともに明らかに違うし、その様な環境は好まない。

好まないと言う事は長い期間そこには無く、あったとしても何れ消滅してしまうと思われる。

自然遷移による環境の変化は時にその植物には打撃だが一方にとっては好都合な事で、その遷移が一瞬にして起こる事がある。

巨大地震です。

陥没や隆起の地殻変動で地形が変化するし、その後の侵食という遷移もあります。

植物地理学と言う学問からのアプローチはどうだろうか。

もし広義キリンソウとヒメキリンソウの接点となる環境が一時的に(数千年単位で)存在したなら、可能性はある気がする。

実際雑種起源と思われる植物が、種として累代可能を獲得している物は世界にあるからだ。

何れカンザシキリンソウが正式に記載され、ヒメキリンソウとの関係や、キリンソウ属のどの辺りの位置付けがなされるのか、楽しみに待ちたいと思い終りにする。

 

 

ヒメキリンソウ

ヒメキリンソウは四国産地に固有の明瞭な種で、若き牧野富太郎博士によって描かれた植物画はその特徴を余すところなく捉えた傑作です。

採集された標本はあったが、記載はされておらず後にロシアのマクシモヴィチにより正式に記載され、和名は牧野博士の物が採用されていて、近年属がキリンソウ属Phedimusに移されたことで、ハート博士によって再記載されいます。

花数は少なく葯包は朱色で全体的にスレンダーで貧弱な感じを受け、塊根から発芽して最初の1対の対生葉がつくのは通常で4〜50mm(開花個体で)の場所で、次の2番目の対生がつくのは更に3〜40mmの茎がある。

茎の断面は最大5mmに達し(カンザシキリンソウでは良好な生育でもその様に太くなる事は無い)、対生する葉は3〜4対しかないので、節間の長い間延びした植物体の様に思える。

しかし貧弱や間延びと言うのとはいささか違って、節間は陽当りによって変化するものではなく、それがヒメキリンソウなのです。

また茎葉は完全な対生で苞葉部のみが互生するが、何かの生理によって対生にならない場合はあるが、国内のキリンソウ属でヒメキリンソウ程安定した対生を示す物は他には無い。

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画像左は良く生育した時の物で地表から200mm程、茎葉は3〜4対、画像右は苞葉を含めた最上部の状態。

苞葉を含めたと表現したのは、矢印の場所は葉が互生しているという事を示したが、そもそも苞葉と言うのは矢印で示していない花に最も近い葉達だろう。

そうなると互生している葉達は何だろうと考えると、苞葉を更にサポートしている一番外側の苞葉、つまり総苞にあたるのではないかと思っている。

他のキリンソウ属も開花する茎は同じ様な事を示すので、この互生している葉は葉と言っても茎葉ではない。

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カンザシキリンソウと違って暖地での栽培にはなかなか困難なもので、家を空けることが多い私はかなり苦労させられました。

自生地の環境によるものが大きいので栽培には向かず、キリンソウだからとついつい侮っていると失敗する様な野草です。

恐らく国内のキリンソウ属中、一番栽培に向かない植物と思います。

決して乾く事がなく地表付近がかなり湿った水が滲み出る様な環境に最も生育し、冷涼で湿ったチャートを主体とした土壌上に自生する。

カンザシキリンソウは広義キリンソウ同様陽当りでの栽培も容易ですが、ヒメキリンソウは全くダメで貴重な1本を実験したのですが、夏までには溶ける様に枯れ果ててしまいました。

栽培植物として累代を重ねていくことが可能であれば変わるかもしれませんが、暖地ではきめ細やかな管理をしてもやっと維持出来る程です。

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カンザシキリンソウでも書いたように高温傷害が出ます。

4月までは問題なく生育していますが、5月になると成長点付近の葉がおかしくなります。 

画像左の様に花芽を包む様な葉に褐色のシミが現れます。

また花芽の成長が阻害され正常に開花しない、または開花しない様になります。

画像右は開花しない茎の場合で同じくシミは出ていますが、成長点付近の葉が覆うように曲って変形しこれ以上展開しません。

その代わりかどうか判りませんが、葉腋からの芽が発達してきます。

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左の茎は割と開花していたが後に高温傷害の症状が出たもので、葉腋の芽が成長し始めてきました。

右の茎は早い段階から高温傷害の症状が出てきて開花しない花があり、葉腋の芽がかなり大きく発達しています。

また画像の辺りの葉は全て大きく互生していますが、全体の姿は対生している茎葉あたりも節間が長いため、この辺りでの互生している葉は苞葉と見るべきなのか?ここまでを苞葉とすると茎葉は3〜4対しかない事になりす。

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画像の一番右の茎の様に○で囲った上の様に、上部の場所でも対生を示すばあいもあるし、少し互生する、大きく互生する事も観察された。

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概ね茎葉は対生を示し互生する物はありません。

 

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花は星型で花数は自生地の良好な生育でも10は超えない様で、暖地栽培ともなれば概ね1〜3で5までが限界でしょうか。

裂開前の葯包は鮮やかな朱色で、裂開と同時に失われます。

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開花がやっとだと1花と言う事も多々ありますが、右の画像では花数はありますが既に傷害が出ていて2つ目の開花が上手くいかない状態で、残りの花も開花には至りませんでした。

よく見ると蕾の先端に異常がが見てとれますが、最初の花は何とか開花に至りその直後に症状が出てきたのでしょう。

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現在まで実生が出来た事はなく、この様な房果があっても中に種子は無いです。

これも障害の影響ではないかと思っています。

 

不在がちな私の場合細やかな管理がどうしても出来ず、開花期などは特に不在が続いたりとなかなか難しいのが現状です。

一時は絶種してしまったかと心配しましたが、

春先に塊根が生きていたので助かりました。

あと他の広義キリンソウでは見られない興味深い事があります。

越冬方法は常緑または地上茎や発達した塊茎で越冬するが、それとは別にヒメキリンソウではムカゴの様な物でも越冬する様子が確認できたことです。

ある時2月頃に生きているのか確認する為、鉢内の表面やその周囲に何やら妙な物を見つけた。

 

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カメラの関係で画像が粗いが、前年の茎の残骸から出来たムカゴ的な物から再生する様子です。

画像で何とか確認出来るかと思いますが、④が茎節、②は発根しはじめた根で、①の茎節上部はコブ状で冬芽から発芽している。

③で茎節に割と近い場所までは腐りが進行し脱落して、それ以上は腐りは止まっている。

ムカゴ的と表現したのは、生体の葉腋に出来る様な物ではないが、多肉質の茎が根もない状態で横たわって、節付近だけが残って越冬するのはムカゴ的ですね。

多少の大きさの違いはあれど、長さ7、8mmで太さは1.5mm程の小さいものです。

僅かに発芽している物を見つけ、あたりに目を凝らすと幾つも地表面に落ちていて、用土色とよく似て判りにくい。

集めて別な場所に移して栽培したのが、下の画像です。

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ヒョロヒョロしていますが、よく再生したものです。

暖地栽培では7月下旬頃から下葉が黄色くなる物が出てきたり、そうでないものでも外気温が高いので休眠状態になって、秋を迎える事が出来る物は全体の6割程です。

後の4割は枯れている(塊茎も枯れてしまった)物と、僅かに塊茎が生きていて翌年に発芽するのは4割の内1割程度となっている。

しかし秋まで持ちこたえた物の茎が、この様な冬芽になる事が判った。

秋遅くに殆どが根元から腐りが入り倒れるが、

その後徐々に水分を失いながら腐りが進行していくが、外気温の低下とともに腐りも止まり上部の茎がながく残っている。

水分を失っているのもあるだろうが、ある部分に水分を集めている事も考えられる。

その部分こそ冬芽になる茎節付近で、水分と共に茎に残る養分も冬芽を形成する為に集めているようだ。

この現象についてはもっと詳細に調べて、

ここで更新してみたいと思い、長々書いてきた考察をいったん終わりたいと思う。