喜右衛門園芸

植物栽培、観察、雑学、情報発信

あなたに惹かれる・1

トキホコリ

新しいお題をまた立てたいと思いましす。

第1回目は少し変わった生活史を持っていて不思議な植物だが、私は植物に興味を持った頃から何故か惹かれる存在の一つで、大好きな植物です。

このトキホコリが含まれているウワバミソウ属は殆どが湿った場所を好んで生育し、一年〜多年草で常緑または落葉性で硬めから非常に柔らかい物まで、また分布が極めて限られていたりする。

限られた場所に著しく個体数が少ない場合もあるが、殆どは大群生していて単独のコロニーを形成していることが多く、このトキホコリの和名の由来である時にほこる、時にはびこると言う語源にもなっている。

 

自生地を見てみると小さな小川の傍、葦原や河川敷の下草として多数自生していたり、二次的な環境の田畑、水路の際や農家の庭先等でも見る事が出来る。

しかしここには有るがこちらには無い、環境に差異は見受けられ無い場合がよくあり、環境が合えば大繁殖するが、それはこの植物の生活サイクルに関係していると思われる。

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こちらは近所の農家脇で偶然見付けた何本かのトキホコリを観察し、初冬に種子を少量採取した物が由来。

場所が気に入ったのか毎年6月下旬頃に勝手に生えてくるが、増えて困るような事はない。

発見場所である農家脇では、環境的に群落が見られてもおかしくないが、ポツリポツリとしか生えてない。

 

ここで生活史を少し、

一年草で、関東での発芽は大体6月〜7月が最も多いが5月に発芽する場所やお盆過ぎ、遅いと9月なんて事もある様です。

早くに発芽した物は秋までに大きく育ち、単独な物は10〜15cmまでで割としっかりしているが、群落の物は随分と競り上がり下部は徒長していて軟弱だ。

この発芽のタイミングも不思議だが、このタイミングがこの植物の運命を左右していている様に思われる。

何故かと言うと、この発芽の時期には他の殆の植物は大きく成長し、そんな中で発芽しても競争に負けてしまうからだ。

また他感作用、アレロパシーに対して外的にも内的にも弱いように思われます。

このアレロパシーの悪く働く効果はトキホコリの種子発芽が抑制され(外からに弱い)、良い効果としてはお互いが密に生育して純群落を形成する事が出来る(内から外に向かっても弱い)と考える事が出来そうです。

 

自生地では近年ことごとく姿を消してしまっているが、稀に埋土種子が圃場整備や何だかの理由によって耕されたり天地替え、草刈りの際に埋土種子が発芽して現れる場合もあるがかなり稀です。

かつての自生地であってもいったん環境が変わり他の植物に生育地を奪われてしまうと、乾燥化も進みその後に姿を表す事は難しく、姿を消してから長い時間が経過した場合では種子の性質にもよる為か復活は簡単ではない。

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実験観察では初冬に種子が散布されているであろう土を薄く持ち帰り、半分は湿らせたままもう半分はまるっきり乾燥させた状態で翌年まで保存し、発芽してくると思われる時期に乾燥させていた土に水分を添加してみた。

結果は乾燥させていた土から発芽は見られなく、乾燥には耐性が無く急速に発芽能力を失うと思われた。

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本来の自生地は先に書いたように、平地の水辺で特に葦原や小川畔に多く自生していたのではないかと思われますが、葦原は野焼き、その他は草刈り等で管理さた場所で、発芽のタイミングと人間活動がマッチした場合に繁栄をしていた植物の一つだったのかもしれない。

 

その様な場所も管理されなくなった、また管理されていたとしても除草剤を散布されたりして、現在は人間活動が必ずしもトキホコリが生育する条件にマッチしない事が多いと思われます。

急激に少くなったとは言え個体数は少ないが自生し、もしかするとこの今の状況は2次的な環境では通常なのかもしれない。

西日本に自生地が極端に少ないのも、こうした環境が少ない為なのか、同属の植物または同じ生育のサイクルを持った植物とのすみ分けをしている為なのか、興味深い点でもあります。

勿論他とは違う生活史の為、発見例が少ないだけの可能性も捨てきれませんが。

東日本での自生地はかつて幾らでもあったはずなので、まだまだ発見されていない場所でひっそりと生育していると思われますし、現在は何処でもひっそりと自生しています。

その姿は、次にはびこる機会を淡々とうかがっているのかも知れません。

時々ほこるのだから。


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