喜右衛門園芸

植物栽培、観察、雑学、情報発信

新たな導入・1 Orostacys latielliptica

今年になり以前から種類から判らなかったものが判明したり、新たな種類や別な個体が導入されたので、考察も兼ねて記してみたいと思います。


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この種類は朝鮮半島固有ではないかと思われます、ラティエリップティカです。

韓国抱川市近郊に自生しているようで、

" 抱川 " の名前で入っていました。

これらを輸入した方に現地へ聞いて頂いたので学名が判ったのですが、

先に"全くわからない・1 オロスタキス " で紹介した個体も学名が判明したので、後に紹介します。

 

学名が判明したのですが問題があり、結論から言うと学問的に未だ未記載種の域を出ていないのです。

どの様な事かと言うと、なるべく簡単に現在の状況を調べてみましたので(発表されていない、発表目前な事は除く)、説明します。

 

まず2000年に韓国のイ・ヨンノ氏によって、

朝鮮半島、京畿道京畿道1999.10.14採集の標本をもとに発表されました。

タイプ標本は韓国植物研究所にある事になっています。

ところが国際的にはこの学名の物は、malacohylla var. malacohylla  のシノニム(同種異名)にされているのです。

この学名の植物は日本にも自生していて、ゲンカイイワレンゲがそれにあたります。

国内では九州北部が産地になっていていますが大陸にも広く分布する(ゲンカイイワレンゲ、アオノイワレンゲ、それぞれのタイプのmalacohylla)事になっているので、

これの1タイプに過ぎないと結論している。

 

ここでOrostachys属について簡単に。

属中を大別する2つのセクションがあります。

それぞれゲンカイイワレンゲ・グループとツメレンゲ・グループです。

それを分けている特徴は、

ゲンカイイワレンゲを基本種とした変種(アオノイワレンゲ、イワレンゲなど)を含めた物たちは、葉の先端は丸く時に尖り全縁なのに対し、ツメレンゲの葉の先端には針状のガラス質な棘があります。

先ずこれを頭に入れて先に話を進めます。

 

で、結論から言いますとlatiellipticaは、malacohylla ではないです。

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latielliptica


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メレンゲ

 


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アオノイワレンゲ

 

この画像で確認してもらえば判ると思います。

ゲンカイイワレンゲのグループには決して無い、ツメレンゲのグループにあるガラス質の針状の棘を持っているからです。

 

なのに何故論文が受け入れられなかったのか?

 

私の観察と推測です。

経緯は判りませんが、原標本ではガラス質の棘が欠損していたので malacohylla と間違われたとか、開花時期に下葉が枯れている状態で採集されたとか。

いろいろ想像しますが、例え葉が全て枯れていたとしても花茎の苞葉にも、全ての葉にガラス質の棘を持っているはずなので判ると思うのです。

自然環境において、外的圧力によってこのガラス質の棘は欠損していることも多々ありますし、標本でも多々見ています。

またある種のサボテンの様に、ガラス質の棘は成熟してくると脱落しやすくなる様です。

各産地の標本の中にはこの latoelliptica が、

malacohylla として処理されているものが他にもありそうです。

 

正確なところはタイプやホロタイプ標本を見るしかありません。

 

私はこの植物を、

malacohylla var. malacohylla では無いと断言出来ますし、

latielliptica は種として認識されるべきと思います。

 

取りあえず、この辺で。

 

2021・9・5

latielliptica は今回初めての観察になりますが、アオノイワレンゲ節とツメレンゲ節をつなぐ種と思われる興味深い種と思います。

確かにツメレンゲ節ではありますが、平たい葉や葉数、腋芽を出し株になりますが開花の年には全てが開花し枯死する点、これらはアオノイワレンゲ節の性質に良く似ています。

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花茎の様子も花茎葉の葉腋に小さな芽が付いていますが、ツメレンゲ節の spinosa 種に顕著に見られる物です。

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これらの性質はアオノイワレンゲ節、ツメレンゲ節に分けられた種や変種の中でもお互い持ち合わせた生活型ですが、やはり節を分けるのは葉先の針状突起になるようです。