喜右衛門園芸

植物栽培、観察、雑学、情報発信

Conophytum garden hybrid No.13

園芸コノフィツム覚書き・13 “ 阿多福 ” と “ 雨情 ”

" 阿多福 " は交雑実生選別の園芸品で、この名前は個体名(クローン名)です。

何を親に使ったのか等興味があるところですが、信州名店だった錦園園主田中喜佐太さんの作出です。

花は薄いクリームイエローで中輪、花弁は細く幅は元から先端近くまであまり変わらず、緩やかに先は尖る。

" 阿多福 " の名の様にとてもふくよかで、裂葉は丸く腫れ上がり谷に向かい窪んでいます。
葉一枚が30mmに達する大型品で、膨れた姿から " オタフク " となったのはうなづけます。

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線模様があり細く目立ちませんがハッキリとしています。
葉色は灰緑色と言ったところですが、若干緑が勝った色合いです。

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この " 阿多福 " にも別な品違いが流通します。
決定的に違うのは花色で、品違いの物は白花で小さいので直ぐに見分けが着きます。
葉の形状も違い大きさも小さく、線模様も太くにじんだ感じでオリジナルとは違います。
また生育時期の中盤位から(場合によってもっと早い時期から)側面半分から下は赤っぽく染まりますが、オリジナル品は休眠間近まで染まる事はありません。
大多数の方々が御持ちの " 阿多福 " は、この品違いの物だと想像します。

このオリジナルの " 阿多福 " が最近別な名前で流通するのを見ました。
それが次に紹介する " 雨情 " です。
この記事を読まれた方は " 雨情 " だと思っていたのに " 阿多福 " だったのか!って思ったに違いないです。
まぁ、" 雨情 " でなく " 阿多福 " だと思って入手されたのなら別ですが。
その他に " フィキフォルメ " として販売されているのも確認しましたので、購入するときの参考にしてください。

次にその " 雨情 " を紹介します。
かなり古い物なので有名な園芸業者のカタログに名前は出て来ますが、どの様な物であったのか正確に知る方は非常に少いと思われます。

錦園と双璧をなす神奈川県藤沢にあった紅波園園主渡辺栄次さんが、命名され愛培していたのが始まりです。
由来は輸入によるものか、実生(交雑実生なのか、同種交配なのか?)による作出なのかは不明(私は知らない)です。
見た感じでは方親がトルンカツム種の一タイプの様ではありますが、その辺りの事(フィキフォルメ、オブコルデルム、トルンカツム間での交雑実生、またはその交雑実生同士間の交雑実生等が無数にある為、特定は困難)は、最早追いかけられないです。

" 雨情 " は昭和39年発行の " 女仙 " に唯一画像があり(モノクロ)、" 春雨の中を、蛇の目傘を廻し乍ら歩いて行く人の風情 "
と解説されている。
葉は蛍光色(実際には若草色を白っぽくした様な色合い)で、円筒形でやや丈が高く頂面は平たく線模様は疎らです。
花は極薄いクリームで花弁は緩やかに旋回し中輪で、芳香がありますが、極わずかです。

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どうでしょうか?
" 阿多福 " と線模様は若干似てはいますが、葉姿、色合い、判りにくいですが葉の表面の質感は違います。

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この違いはよく判るはずだと思うのですが、どうでしょう。

原種、園芸品問わず花が旋回するものは希に見られますが、トルンカツム種やそれを親に使った交雑品には比較的みられる様に思います。
かなり昔ですから珍しい存在だったはずなので大切にされたのだと思いますが、今となっては特に何が凄いのか、どの様に特徴的なのかはぼやけてしまっています。
なので名前の存在感はある(業者カタログにもあったので名前を知る人々はそれなりだったと思いますが、現在知る人は少いと思われます)が、実物はそれほどインパクトに欠ける感は否めないです。
段段と新しく魅了な物が数多く出て来たので、廃れてしまったと思われます。

実際流通していた物を私は知りませんが、この様な特徴を持つ物は結構あったかもしれないので、別に似た個体が流通していたとしても不思議ではないと思います。

それでも私にとってはとても大切な思い出の品となっています。
紅波園の渡辺栄次さんの後2代目の奥さんであった、喜久子さんより直接頂いた物だからです。
皆さんは紅波園のお婆ちゃんとして御存じの方が多いと思いますが、それはとても柔らかく非常に人当たりの良い方でした。
色々な古いお話を伺ったのが昨日の事の様に思い出されます。
" まさか " 雨情 " を知っているのには驚きました。" と、言っていただいて未だ在るかしらと探して頂き、購入するところ
" さしあげます、持っていって楽しんでっ " と仰っていただいて、、、、。
栄次さんの渋い感性で命名され、後に園主となられた喜久子さんから頂いた、忘れられない物です。