四半世紀以上前になりますが、
ほしくさを見に行くと言ったら 、
「え〜、なにそれ〜、干し草〜、そんなの見てどうするのぉ〜、どこの牧場にいくの〜?」
嘘のような本当の話をされた事があります。
当時はちょっと足を延せば簡単にホシクサ属植物は見る事が出来、都内でも幾つか自生地があり見る事が出来た。
植物に興味を持った頃は様々な植物を観察しに出歩いていたが、特に水辺は好きなフィールドでありその一つに水田をはじめ湿地には大変よく通いました。
だから水田雑草と呼ばれる植物は大好きで、現在では簡単に見る事が出来ない様な植物達を随分と見る事が出来た。
どの種類も甲乙付け難く、水位の変化で皆美しいそれぞれがそれぞれの育ち方をしていて、何とも癒されたものです。
水田雑草を始めとする湿性植物で、特殊な種以外は除き大半は現地で見る事が出来たし、その他多数の現状不明植物、絶滅危惧種をフィールドで観察出来た体験は、私の人生に於いて何事にも代え難く生涯の良い思い出となっている。
また当時私がその様なフィールドワーカーの年少者だった頃、同じ様な事をしていた同世代の人間には誰一人遭わなかったが、先人方先輩の歳になって世の中も変わった現在から当時を振り返ると、何時の時代も私と同じ様な事をしている方々は居るのだと感じるし、過去より現在の方がその人口は明らかに多いのは喜ばしい。
だが、その大半が単なる栽培目的の最終的には金銭目的でフィールドに出ているだけの人間達であるのが非常に残念で、やはり色々な意味で道徳的緊張を持った人を形成するには、教育が如何に大切なのかがわかった。
話を戻すと、
水田雑草を始めとする湿性植物に限って言うと、通ったまたは見た場所(100の単位で)の8割は消失し、耕地放棄、圃場整備、作付け転換、造成等で見る影もないのは、寂しく残念な気持でいっぱいだ。
全国にある私のフィールドにはその後一度も訪れていない。
当時も一期一会と覚悟を決めてフィールドへ行っていたが、現在は衛星画像を簡単に見る事が出来るし、画像データがある場所なら水平方向でその場に立った様に見れるので、現在を簡単に把握出来てしまう。
私が訪れた翌年絶滅してしまった植物も幾つかあるが、大半はその後かなり近年まで自生していたと思うが、いや思いたい。
当時私も多くの先人方より、私が現在持っている気持ちと全く同じ話を私にされたのを思い出すと、いつの時代も先をいく人々は昔の話を懐かしみながら、現状をどうする事も出来ず諦めの気持ちだったのだと感じる。
私も何時の間にか先人方と同じ道を辿っている自分に気付き、あきらめと嘆きの日々です。
何でもかんでも現在が判ってしまう事は、美しかった思い出をブチ壊す何とも精神衛生上極めて悪い事で、個人にとって知らなくても良い事もあるのでそれ以降検索する事は止めた。
さて今回はそのホシクサ属の最も広く分布し、科の和名にもなっているEriocaulon cinereum ホシクサを取り上げます。
かなり前に近くの商業施設に行った際、隣の田圃にホシクサやあまり見なくなった他の水田雑草があったので、こんな場所に未だ残っているのは珍しいし、嬉しくなった。
きっと除草剤を使っておらず、自分の家で食べる為だけの田圃ではないのか?
って考えを巡らせた。
その時期は稲刈りも終わったばかりで、 ホシクサを含む水田雑草はあらかた踏まれて綺麗な状態ではなかったが、いつか稲刈り前にまた訪れてみようと思った。
酷暑の中買い物ついでに見に行き、健在なのが嬉しかった。
気掛かりなのは、何時まで稲作をしてもらえるのか?地主は恐らく既に高齢のはず、商業施設や住宅街の中にある水田の運命は暗い。
近隣にこの様なホシクサを始めとする水田雑草が出現する田圃は皆無と思うと、また来季見れる事を祈る気持ちで、毎年が一期一会の対話なんだなぁと、なんともやるせない一日になった。