喜右衛門園芸

植物栽培、観察、雑学、情報発信

メストクレマ・ツベロスム 〜 樹になるメセン・・・ Mestklema属について

メストクレマ属は私が知る限り6種1亜種が記載されているが、流通する物は限られた種類な為実態を掴みにくいものです。

この事とリンクする様に、国内外で個体と種類が違って認識されています。

 

本当のところは今後の学者の研究結果でないと判りませんが、ある可能性について私感を書いてみたいと思います。

 

私感、考察です、論文等全く調べていません。

 

メストクレマ属は恐らく単独種でその中には別種は無く、精々亜種程度でしょう。

その中でも興味を持った頃から疑問であった物に macrorhizum と言うのがある。

特に国内外で流通し、やたらと実生で増えるメストクレマ・マクロリズムとして流通する物は、全て別属の植物です。

では何かと言うと、デロスペルマあたりの属植物ですかね。

たまにデロスペルマ属植物として苗や種子が流通しているのを見かけますが、どこでどう間違ったのか、皆さんが間違えて疑わない。

まぁ現在デロスペルマ属に含まれているものも再編が必要だと思いますが、どの様な形で決着がつくのか興味があるところです。

 

このマクロリズムは、花の構造がメストクレマ属とは明らかに違う。

この植物は自家受粉性が強く、メストクレマは栽培下で普通に開花しても種子が出来る事は稀です。

何故かは後述したいと思います。

そもそも記載のあるマクロリズムは別属に編入される植物で、メストクレマでは無いでしょう。

 

そうなると残るは albanicum、arboriforme、copiosum、elatum、illepidum、tuberosumがあるが、標本画、標本、画像の外観からの差異を分ける事は出来ないです。

唯一の違いは花色しかない。

基本になる物は花色が桃〜ワインカラーの紫系で、アルバニクム、コピオスム(花色は紫系だと思われるが標本や標本画からは読み取ることが出来なかった)、エラツム、イレピドゥムと分類されているもと、黄色〜白色の花を持つアルボリフォルメと分類されているものです。

 

10年程前に自生地から引き抜かれた転がしとして、紫系の花色を持つメストクレマがエラツムとして国内に入っていた。

やはり外観を観察すると花色以外には区別がつかず、(多少の葉の長さや断面の形状、節間等には差があるが、変異、または個体差の内である )花色だけではエラツムだとも断定できず区別がない。

またアルボリフォルメは白っぽい花を持つタイプで、白色〜薄い黄色の花を咲かせますが、しっかりした黄色の花を持つものも同種とされている。

この事は紫系の花を持つものも同様で濃淡、紫〜赤桃まで変化があります。

悲しいことだが、のアルボリフォルメも現地で何十年も自生していた物が引抜かれ、転がしで国内にも随分と入って来ていて販売れている。

更に国内で最も馴染みのある朱赤〜橙の花を持つツベロスムと分類されている。

そして国内ではツベロスムとして長らく栽培されていて、メストクレマと言えばツベロスムと言われ朱赤から朱樺色の花色を持つ物です。

このツベロスムとして入った、または実生された個体でも花色には濃淡があり、外気温の影響を受けるものの紫系、赤系とも退色が早い。

むしろ紫、赤紫で青い色素は気温が高いと消滅する事が判っていますから、ツベロスムと呼ばれているタイプの花は気温が低い5月頃または6月の朝は下地に紫がある朱樺色で、幾分寝ぼけた様な花色ですが、朝でも気温が高い7〜8月頃では咲き始めから朱赤で紫系が飛び赤味を増した花色です。

紫系の特に紫を感じる花色のタイプは、気温が高い時期では赤味の強い花色で、輝きのあるワインカラーではないかと想像出来ます。

 

 

結論的には、植物体に変異はあるもののあらかた同じで花色のみに違いがあるようで、花弁の長さ幅に変化があって印象が違うが、花の構造は同じ物です。 

花色は基本的な花色が紫系と黄系とがあって、それぞれが交雑することで誕生し、長い時間の中で固定されていった可能性があります。

だからメストクレマは1種類の単独属と思われます。

特にツベロスムと分類されている赤〜橙までのものは、桃〜紫系の花色の物と黄〜白系の交雑で出現した物と思います。

この事は同じメセンでConophytum属でfurtescens種の由来が自然交雑と考えられている事、また花色の出現の原理は国内の園芸コノフィツムで判っている事と同じです。

長い年月の間に同じ種の中で花色の違いが生じ、それがもとで更に違う花色を持つものが誕生した。

これらが現在も自然界で自生し、それぞれ幅のある基本色の子孫を残している事実がありますが、これらは花粉を媒介する昆虫の種類の進化とも密接な関係があるのではないか。

昆虫の眼がこれらの花色がどう視えているのかは想像すら出来ないが、昆虫の種類によって見え方が違うと言う事は判っているので、同種の植物であってもどの花色が子孫繁栄に繋がるのか、出来るのか命をかけた賭けに違いない。

その賭けがそれぞれの土地で一応成功しているみたいだ。

詳細でグローバルな研究がなされれば、花色と植物の分布、そこに暮らす昆虫の種類がリンクしている可能性もある。

なぜならそれぞれの花色を持つメストクレマが、その土地で今も自生している説明がつかないのではないか。

 

栽培下での考察

国内で路地栽培していると、通常で種子を採取する事はなかなか無い。

花は沢山咲くが花粉を媒介する昆虫が居ない為(花の構造上蜜腺まで届く長く細い口を持つ昆虫、チョウでは長すぎるし蜂虻、甲虫では無理がある、恐らくガガンボの仲間ではないかと)、自然な受粉は難しい。

仮にガガンボだとすれば、最花期である6〜9月までの暑い季節にガガンボは居ないし、ガガンボ以外の花の蜜をエサにしているガガンボ的な口を持つ昆虫は居るのか?って事になる。

家にあり実生から育てた朱赤の花を持つメストクレマは10年経っているが、毎年花着きが大変良いが種子が実っている形跡は全く無い。

元より自家受粉性に乏しいので、近くに別な挿し木(実生の親より穂木)の開花苗を植えてるが駄目だ。

やはり花の構造上人工的に受粉させねばならない様だ。

花の構造だが、ハマミズナ科によくあるタイプの花で雄花が雌花を隠す様に花の中心を覆ってしまっている。

しかも花を正面から見た時に、こちら側の中心に向いながらすぼまっていて、蜜を得ようとする昆虫は直接口を蜜腺につけることが出来ない。

雌花の脇に蜜腺があるのだが、雄しべが昆虫の侵入を妨げていて蜜の香りがして寄ってきても、蜜に有りつけないのである。

有りつく為には程々の細く長い口が必要で、必ず密な花粉を噴いている雄花畑を口が通らなくてはならない。

そして受粉するのだ。

昆虫には難しいとなれば、花を解剖して強制的に受粉させるしかなさそうだ。

露地栽培の個体はたまたま種子が鉢にこぼれて発生した実生を育てたもので、どの様な事で種子が得られたのかは不明だが、それ以降は種子が採取できた事は1度も無いです。 
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私の考察が正しければ、紫系の花を持つメストクレマとアルボリフォルメとされる黄〜白色の花を持つメストクレマを人工的に交雑させれば、ツベロスムとされている朱赤〜橙色の花を持つメストクレマが出来るはずだ。

仮に得られたら考察は限りなく近い真実に違いないと私は思う。

 

2023・8・6

自然状態では開花はあっても結実しないので、人工的に先月から受粉させようと細工していました。

やはり人工的にやれば受粉して結実するんですよ。

種子を採ってみないと何とも言えませんが、見た目では受粉には成功していると思われます。f:id:S-kiemon:20230806151959j:imagef:id:S-kiemon:20230806152021j:image
画像右の囲ったのは結実したものです。

スマホでは最大に寄っても限界で、ピントも合ってませんが御勘弁を。

 

2023・8・11

5月の下旬あたりから疎らに開花し始めて現在も開花し続けていますが、開花し始めた頃の訪虫はヒラタアブの仲間がよく来ているのを確認していました。

しかし6月に入ったあたりから訪虫を見なくなったので(いつも見ている訳にはいかないので、ちょっとしたタイミングで見ただけです)、ただただ花盛りなだけでした。

最近花を解剖して人工的に受粉させたりしましたが、常時50花以上が開花していますから面倒くさくなってしまいやっていません。

ここ数日の間に訪虫をまた確認しましたので、書きとめておきます。

ヤマトシジミと思いますが花の蜜を吸いにやって来て、およそ10分間に色々な花を周っていました。

これで受粉していて結実したら良いなぁって思っています。

 

あなたに惹かれる・1

トキホコリ

新しいお題をまた立てたいと思いましす。

第1回目は少し変わった生活史を持っていて不思議な植物だが、私は植物に興味を持った頃から何故か惹かれる存在の一つで、大好きな植物です。

このトキホコリが含まれているウワバミソウ属は殆どが湿った場所を好んで生育し、一年〜多年草で常緑または落葉性で硬めから非常に柔らかい物まで、また分布が極めて限られていたりする。

限られた場所に著しく個体数が少ない場合もあるが、殆どは大群生していて単独のコロニーを形成していることが多く、このトキホコリの和名の由来である時にほこる、時にはびこると言う語源にもなっている。

 

自生地を見てみると小さな小川の傍、葦原や河川敷の下草として多数自生していたり、二次的な環境の田畑、水路の際や農家の庭先等でも見る事が出来る。

しかしここには有るがこちらには無い、環境に差異は見受けられ無い場合がよくあり、環境が合えば大繁殖するが、それはこの植物の生活サイクルに関係していると思われる。

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こちらは近所の農家脇で偶然見付けた何本かのトキホコリを観察し、初冬に種子を少量採取した物が由来。

場所が気に入ったのか毎年6月下旬頃に勝手に生えてくるが、増えて困るような事はない。

発見場所である農家脇では、環境的に群落が見られてもおかしくないが、ポツリポツリとしか生えてない。

 

ここで生活史を少し、

一年草で、関東での発芽は大体6月〜7月が最も多いが5月に発芽する場所やお盆過ぎ、遅いと9月なんて事もある様です。

早くに発芽した物は秋までに大きく育ち、単独な物は10〜15cmまでで割としっかりしているが、群落の物は随分と競り上がり下部は徒長していて軟弱だ。

この発芽のタイミングも不思議だが、このタイミングがこの植物の運命を左右していている様に思われる。

何故かと言うと、この発芽の時期には他の殆の植物は大きく成長し、そんな中で発芽しても競争に負けてしまうからだ。

また他感作用、アレロパシーに対して外的にも内的にも弱いように思われます。

このアレロパシーの悪く働く効果はトキホコリの種子発芽が抑制され(外からに弱い)、良い効果としてはお互いが密に生育して純群落を形成する事が出来る(内から外に向かっても弱い)と考える事が出来そうです。

 

自生地では近年ことごとく姿を消してしまっているが、稀に埋土種子が圃場整備や何だかの理由によって耕されたり天地替え、草刈りの際に埋土種子が発芽して現れる場合もあるがかなり稀です。

かつての自生地であってもいったん環境が変わり他の植物に生育地を奪われてしまうと、乾燥化も進みその後に姿を表す事は難しく、姿を消してから長い時間が経過した場合では種子の性質にもよる為か復活は簡単ではない。

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実験観察では初冬に種子が散布されているであろう土を薄く持ち帰り、半分は湿らせたままもう半分はまるっきり乾燥させた状態で翌年まで保存し、発芽してくると思われる時期に乾燥させていた土に水分を添加してみた。

結果は乾燥させていた土から発芽は見られなく、乾燥には耐性が無く急速に発芽能力を失うと思われた。

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本来の自生地は先に書いたように、平地の水辺で特に葦原や小川畔に多く自生していたのではないかと思われますが、葦原は野焼き、その他は草刈り等で管理さた場所で、発芽のタイミングと人間活動がマッチした場合に繁栄をしていた植物の一つだったのかもしれない。

 

その様な場所も管理されなくなった、また管理されていたとしても除草剤を散布されたりして、現在は人間活動が必ずしもトキホコリが生育する条件にマッチしない事が多いと思われます。

急激に少くなったとは言え個体数は少ないが自生し、もしかするとこの今の状況は2次的な環境では通常なのかもしれない。

西日本に自生地が極端に少ないのも、こうした環境が少ない為なのか、同属の植物または同じ生育のサイクルを持った植物とのすみ分けをしている為なのか、興味深い点でもあります。

勿論他とは違う生活史の為、発見例が少ないだけの可能性も捨てきれませんが。

東日本での自生地はかつて幾らでもあったはずなので、まだまだ発見されていない場所でひっそりと生育していると思われますし、現在は何処でもひっそりと自生しています。

その姿は、次にはびこる機会を淡々とうかがっているのかも知れません。

時々ほこるのだから。


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Conophytum garden hybrid No. 17

園芸コノフィツム覚書き・ No.17

 

グロボスムの面白さ

今回はタイトルの園芸とは少し違うが、原種と原種由来の個体を比較しながら、同種でもこれだけ違いがあるのかと思わされてしまう程、違いの面白さを紹介したい。

違いの面白さでは、bilobum 以上に面白い物は無いと思う私ですが、文章や画像で伝えるには膨大過ぎるので、グロボスムを取り上げます。

 

既にご存知の方も多いとは思いますが変異の大きい種の一つで、コノハンにも花色の違いや葉姿の違いが紹介されています。

当時国内に入っていた物は縦型で僅かに窪んだ割目な個体と、裂葉のハッキリとしたタイプ、フラットフォームと呼ばれた平たいタイプがありました。

最近ではこれらのタイプはあまり見られなくなり、原種由来の実生や原種が少し見られる程度

です。

花色は白から濃いピンクまであり、鞘状になりあまり平開しないもの、平開するものがあり小輪、大輪もあります。

平開する有色花では複色を示し中心部は白色で、更に奥には黄色となる花です。

なので白花ではその境目は判らないので、中心部の黄色が目立ちます。

 

 

 

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こちらは当時2〜3タイプ入った物の一つで、

コノハンに平型グロボスムと紹介されているクローンです。

窓(斑点)は僅かに散らばって見られるか全く見られなく、同じ様な外観のウィットステイニイ種と花が咲かなければ見分けがつきにくい物まであります。

花色は白のタイプしか私は見たことがありませんし知りませんが、他のタイプで有色の花を持つものとの交配実生や、元々のこのタイプの有色花もあるかもしれません。

 

 

次は国内に入ってたのは意外と古くグロボスムとしてではなく、ヴァンブレダイと言う名で流通していたことがあります。

ヴァンブレダイ とありますが、スティーブン・ハマー氏の記載によるとヴァンブレダエとなっている。

現在はタイプ名であって学術的に分けているものではない。

最後がイかエの違いだが、国内ではイとなっていてまたルと表記されているのも見ました。

もしかすると筆記体の i または l が本当は筆記体の e の見間違いではなかったかと推察してしまいます。

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ヴァンブレダエのタイプの葉姿は画像の様に、割れ目とは直角に緩やかなキール的な隆起があります。

この隆起は著しいものもあるがかなり目立たないものもあり、窓(斑点)も細かく全体にある物から全く無い物まで様々です。

下の画像は原種ですが、これもタイプとしたらヴァンブレダエのタイプで葉姿よく高度なマットを形成しますが、画像当時で3枚の葉から10年は経過していました。

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有色花の方が古くにヴァンブレダイとしてよく流通したタイプです。

白花は産地データのある原種で、下の画像と同じ個体の別な年の開花画像です。f:id:S-kiemon:20230326072614j:image

このヴァンブレダエのタイプのグロボスムは、栽培の状態や生理状態で、同クローンであっても葉の形状は変わる事がよくあります。

しかしこのタイプが先に紹介した平型グロボスムの様な葉姿になる事はありません。

 

 

コノハンに出ているグロボスムは平型グロボスム以外皆縦型の物だが、現在は廃れてしまったのか殆ど見なくなった。

輸入で国内に入ったものばかりだから、当時海外でもグロボスムと言えば縦型のものが普及していたのだろうと想像します。

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このナカナスと呼ばれだ物は幾分縦型だが、名前の由来は判っていないグロボスムで古い輸入品です。

葉色は翡翠色でキメが細く硬いイメージで、窓が殆ど或いは全く出ない物です。

葉姿も画像の状態では丸型に近い縦型ですが、もっと背が高く裂葉がハッキリする事もあります。

 

次はふっくらとした優しい感じのグロボスムで、一番良く流通するタイプではないかと思います。

この様なタイプで小型なものから大型の物までありますが、葉姿はこの様な感じです。

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花色は白と薄いピンクとあるり、これは大型な方で薄いピンク花です。

これらは原種であろうと思いますが、データや由来が不明である為園芸扱いのカタカナ表記となります。

 

最後はグロボスムとしてはかなりの平型で、最初に紹介した平型グロボスム以上にフラットの産地データのある原種です。

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恐らくグロボスムとしては一番背が低いタイプではないかと思われ、中央がくぼみ一枚葉ではほぼ円形をなしています。

グロボスムとしては花軸が短い方で、花色は白です。

 

以上駆け足でグロボスムを紹介しましたが一つ難点を言うと、水分には敏感な方で辛めの管理と陽をよく取る必要があります。

タイミングを間違えると、実割れを起こしやすく勿論溶けてしまいやすいです。

家でも栽培していて毎年1〜5枚は必ず調子を崩す事がありましたので、高度な姿良いマットを形成している画像の個体は貴重な栽培品でしょう。

増えも他の物と比べ悪く、丁度夜開種のカルクルスなんかに近いかもしれません。

ですから入手したら気長に栽培をつづけ、過度な水やりをせず葉数が増した頃カットし独立個体を増やすか、実生をして栽培品が無くならない様に努めるのが寛容です。

この手の表皮が硬い葉を持つタイプの栽培上手な方にお話を聞いた事はありませんが、やはり肝は水やりと陽ではないでしょうか。

皆さんが思ってる以上に活着した物は水を必要としないです。

 

 

 

Conophytum garden hybrid No.18

園芸コノフィツム覚書き・No.18

“ 小槌 ” について

学名wittsteiniiに対応する流通名は複数ありますが、直に思いつくのは “ 雨月” と “ 小槌 ” ですが皆さんはどうでしょうか。

 

現在はどちらも流通名になってしまったのですが、元々は個体名として各一つ一つのクローンのみにつけられていた名前、個体名でありました。

どちらも元は輸入された幾つかの個体の中で、葉姿の特徴や花色から選ばれつけられたものですが、販売までに葉を分けて苗を作る間もなくニーズが高まり、ユーザーの希望に押し切られる形で流通に乗った為、販売元でもクローンや同時期に輸入された個体を使った実生が盛んにされた。

この様な事は雨月、小槌の様に原種由来の個体に限ったことではなく、園芸交配種でも起こっていました。

→ 園芸コノフィツム覚書き・No.1 " 花園 " 参照

 

運良くオリジナルを購入出来た方は運が良かったが、大抵の場合幾つかのクローンを使って得た種子による実生品を小槌として入手されたに違いない。

確かな販売元で小槌として購入したので、現在まで小槌として栽培して来た事に何の疑いも無く、栽培を続けている方々が意外と多いのは知られていません。

今一度ご自分の栽培品をよく観察されては如何でしょうか。

 

またこの様な事実を突きつけられた古参の方々は、素直に事実を受け止められず意固地になるかこちらをクレマー呼ばわりする傾向にありますね。

だから明確な証拠となる画像や実物が必要となります。

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著作の関係でコノハンの画像を出したらマズいとは思っていましたが、未だ疑の目があるのも事実なので、記載に踏み切りました。

田中さん、大目に見てください!

コノハンに記載されている画像とよく似たアングルで撮影しましたが、所有者の話では近年他界された方の持ち物だった様です。

ずっと小槌の名で流通する多くの個体に違和感を抱いていた私にとって、やっと疑問が解けた瞬間でもありました。

小槌の名で私が栽培している個体の札を訂正して、カタカナ表記のウィットステイニイにしなくてはなりませんね。

実際に小槌の名で流通している個体とオリジナルの個体とは、葉姿で見分けが付かないとは言い切れず、開花すれば一目瞭然です。

また黄花小槌は小槌と付いているが、黄花で大型のフラヴァ厶で違う種類です。

それとは別に大型小槌と呼ばれるものがありますが、葉色と質感が違い小槌より遥かに大型の個体達です。

個体名ではなく複数の大型個体が存在しますが、葉色は紺碧一色な事は共通しています。

因みに " 雨月 " ですが、やはり輸入品の一つに付けられたものですが、当初から幾つかのクローンを呼んだものです。

早い時期から実生もされ、またこの小槌、小槌の実生個体等と交配されて得た実生個体が雨月として流通した為、当初雨月と呼んだ特徴が失われてしまったようです。

現在も当時の " 雨月 " 的な特徴を残した個体も見る事が出来ますが、園芸的な特徴としては弱くその名前をあえて付けるには至らないと考えます。

雨月は流通名の一つで、また別な時に書いてみたいと思います。

 

2023・12・7

以前から" 小槌 " として栽培している、または流通しているオリジナルと大変よく似たクローンとのツーショットを昨年から撮影したいと思っていました。

しかし花時期が合わず(休眠明けのタイミングであって個体の差ではない)、ご覧の通りです。

私と棚の所有者との予定も合わなかったので、またの機会があればチャレンジしたいと思います。

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違いがお判りになりますか?

花色はどちらのクローンも濃いので差異は感じられないし、葉姿や細部にも違いはあるものの明瞭ではないし、生育状態にもよるので判別がつきにくい。

しかしながら花の大きさはオリジナルの方が大輪で、画像ではそこが判りにくいのが残念です。

オリジナルは輸入による物なのは事実で、輸入ともなれば1クローンである事は考えにくくこのよく似たクローンはその時に一緒に入った物、或はこのオリジナルよりの実生のどちらかです。

恐らく花色だけならオリジナルと差が無いので、株分のみでは愛好者からのニーズに応えられないと " 小槌 " として流通させたと思われ、実生であった場合も同様です。

昔から個体名(1クローンの株分けのみに付けられた固有名)だと思っていたものは固有名では無く、複数のクローンが初期または最初から存在していたと思われます。

そもそも個体名を付けて分けるには特徴が曖昧で、限りなく唯一無二の存在では無いのがこの様な事を招く結果と思います。

 

コノハンでも花色が濃いと解説されているので、花色だけ見たらそうなりますよね。

でもオリジナルは大輪なのも事実でありますが、この程度の差異を分けて考えますか?

皆さんはどう感じましたでしょうか。

もし個体名 " 小槌 " として分けるのなら、花色が濃く大輪のコノハン記載の個体をあてて、大変よく似たクローンは " 小槌 - A " とか -B とか、

とでもするのが良いのでは?

" 安珍 ヲ " みたいにね。

だけどそんなの意味ある?

 

 

 

 

 

 

 

センペルビウム・あれこれ 9 Sempervivum etcetra

センペルビウムは好きですが、似た物が多いため品違いや同品異名なものが世界中に散らばってしまい、どうにもならなくなっている気がします。

まぁ、品種を多数もつ植物の宿命でもありますが、センペルビウムのナショナルコレクションや作出された年代、氏名の資料があるだけまだマシでしょうか。

本来細かな違いの判る人が多いと言われる日本人でも、センペルビウムの品種で札落ちや混ざりがあったらまず見分けられる日本人は居ないと思いますが、どうでしょうか?

季節や日照、生理、成長過程等、様々な条件で、同じ品種のクローンであっても著しい変化を見せるセンペルビウムは、カメレオンです。

その中でも今の所札が無くとも他の品種と間違う事が無い品種と思われる物の中に、Saxson があります。

秋遅くと早春の気温が低い頃の美しさは、まず他にはありません。

遠目でも判るなんとも綺麗な品種です。

韓国で大量に増やされて国内でも流通する様になりましたが、栽培に関してはやや高温に敏感な事もありそれ程普及してません。

また多湿には弱く、雪の下、雨ざらしはまず良くありません。

そのくせ斑入り品ですから、日照が少ないと呆気なく弱り枯死してしまいます。

多湿に関しては難しいと思いますが、高温に関しては長く栽培している中で徐々にならしていくことが可能(なれてきています)と思いますので、皆さんも是非栽培の機会を得る事が出来たらこの姿を実際に見てください。


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これは違うな・2 流通する竜田草について

” それは違うな ” はシリーズで時折私が目撃した間違いを指摘するものです。

人から憎まれたりしそうな事ばかり書いているのですが、それ程間違った情報やそれに附随した物が出回っている状況です。

今回も画像は一切ありませんので、興味の無い方はスルーしてください。

 

今回は竜田草に纏わる事です。

違うのは竜田草では無いので、竜田草については検索して頂けたら判ると思いますから、説明は省略します。

Jeffersonia dubia 、2種からなる小さなジェファーソニア属の一つで、早春に鮮やかな藤色から赤味の無い紫の花を多数付けます。

由来、来歴について少し説明しますと、国内に竜田草で流通する物の来歴には、大別して2系統あります。

古くから栽培されて来たやや花色の薄い物と、その後に登場した花色の濃い物です。

 

姿にも違いがあり、古くから栽培されて来たものは大陸から株を直接持ち帰ったとされていて、春先に葉と花茎がほぼ同時に成長し始めて、開花した時には葉も大きくなっています。

一方は花茎が先に成長し始めてその後に葉が成長し始めますが、開花した時に葉の展開は未だ不完全なものです。

現在は竜田草と言えば後者が栽培されている事が殆で、古くから栽培されて来た物は廃れて来ています。

実生もされて、姿の良い物、花色のより濃いもの、白花品が選別されています。

因みに白花品は20年余り前にヨーロッパで出たものだが、各地で実生がされたので幾つかの系統があります。

現在は実生による個体数の増加で、国内でも個体数が増えた事は喜ばしい。

 

話を戻すと、この後者についての来歴を書きます。

今から四半世紀前の事ですが、ロシアの野草種子を販売しますと海外に広告が掲載されました。

国内でも何人かが購入したし私も購入した一人で、そのリストに竜田草の種子もあり非常に興味深いリストでした。

そこで扱っていた種子は、主に沿海州を中心にオホーツク海をぐるっと囲む地域より採集した現地種子、または採集した種子を播種し苗を育てて採取したガーデンシードであった。

当時はヨーロッパでも極東地域の植物種子を入手するのは至難で、これを扱った物は大変センセーショナルだった。

それまでヨーロッパにおける極東の植物であった竜田草と言えば、日本国内にあったものからの種子または植物体を直接導入したもので、先に書いた花色の薄いタイプのみであったので、実生が初開花した時の濃い花色はショッキングであった様です。

その後直に大量に実生が行われ白花品も出たりしたが、自家受粉性が強いのか極度に濃い花色などの変化には乏しい様です。

確かに自生地の大群落を見ても、皆同じ様で白花品等は皆無です。

 

そのカタログには採集地ノースマンチュリアとあり、それを購入し実生した業者が苗を販売した。

その時はちゃんと北満洲と記載があった。

そして種子が多数採取出来た一部を、信州にあった種子を扱う業者に寄贈したが、その時に間違いが起きたのだ。

種子を寄贈した業者はパッケージにノースマンチュリア、満洲(中国東北部地域)北部採集に由来する種子であった為、それを書いた。

しかしパッケージには種子も入っていたので、書きにくかった、しかも漢字を。

だから略してカタカナで書いてしまった。

それを提供された業者は、ホクマン  →   ホフマン  と理解し種子を苗を販売した結果、

いつの間にか広く間違いが浸透して、竜田草(ホフマン)とか、ホフマン系竜田草なんて事になったと言うお粗末な結果です。

ク  →   フ  と間違えたのだが、提供する側される側双方にもっと気遣いがあれば防げたのではないかと。

この話を読んで皆さんはどの様に感じられましたか?

ちょっとした事がその先に間違いが広がる原因になってしまうんです。

間違っても仕方がないが、後の早い段階で訂正して広く発信し続けて欲しいものです。

 

竜田草(ホフマン)  → 

人の名前じゃないんだよ!

ホフマン  →  ホクマン   →   北満

→  満洲北部より採集された種子          に由来する

だから竜田草(満洲北部)とするのが正しい。

庭や畑に地植した大株が数十株もあり開花した姿は圧巻で、用土は場所を工夫すれば丈夫なガーデンプランツなので、皆さんもやってみては如何でしょうか。

 

P.S.

ここに書くのは違うが同じ事例を見かける物に、オロスタキス・スピノサ ex. ボンゴレアと表記されている物がある。

これも   ボンゴレア   →   モンゴリア  が正しく

モンゴル領の西の端でアルタイ山脈に近い地域より、採集された種子に由来を持つ個体達と言う意味だ。

当時の幾つかのカタログにはその辺りから採集されたオロスタキス・スピノサや形態的変異のものの種子が多数出ていた。

まだその当時から得られた物達は維持されているのを見かけるが、日本人も見習ったらどうかな?

発芽の良い物、全く発芽しない物様々あったが、懐かしい思い出だ。

 

 

 

 

 

Conophytum garden hybrid No.15

園芸コノフィツム覚書き・No.15

サマーレッドの正体

園芸コノフィツムに興味を持ってからまぁまぁの時間が経ったが、探れば探る程現代の園芸世界は何事にもいい加減や良い加減が入り乱れ、結果遊びの事だからと真剣さは必要なく適当な世界に成り下がってしまったのだと痛感する。

 

先日ご縁があって学識者とお会いする機会があり、その中で興味深い話を伺った。

それを簡単に言うと、物に興味がある人間には2タイプに大別される。

それが何であろうと何と判らくとも全く無関心で興味がなく、関心があるのは表面上の事のみ、確かにそこにある事実のみに興味がある人間と、確かにそこにある事実とそれが何であるのか何なのか確かめようとする人間だ。

勿論こんなブログを時折書いているのだから当然私は後者の人間で、判らないことには出来る限りの手段を使って知りたいのである。

話を前に戻すと、遊びであったとしても後者ばかりであったなら園芸の世界は今とは全く違っていたに違いないのは明らかです。

 

またいつもの様にお題とは関係ない、ディスリの前置きが長くなりました。

さてお題の通り、サマーレッドと言う園芸交配品があります。

私がその名を知ったのは随分前の事だが、文字通り夏咲きの赤花なんだろうと思いながら栽培をはじめたのは、10年余前の事です。

確かに夏に開花するのだか、6月下旬頃〜9月いっぱいまでと開花の時期は年によって変化がある。

その変化は何によるのだろう。

国内では高温季にあたる為、水やりを控えたり断水させるなど色々な方法でやり過ごす時期にあたるが、それには関係なく花芽は出てくる。 

しかしどういう訳か分け苗を多数作って同条件で管理していても、開花にはバラツキが出る。

成長に差が無く見た目でも同じ物同士で、一方は開花して一方は随分と後になって開花したりする。

夏咲き品にはどうもその様な傾向があり、この他園芸品では “ 聖火 ” や    “ 黄金の波 ” でも観察している。

特にこのサマーレッドでは毎年観察しているが、6〜9月までの間で30日程と幅の広い花期がある。 

この6〜9月と言うのはその年の天候や成長度合いによると思われたが、秋寄りまたは晩秋の花期を持つ多くの物には無い(狂い咲きは除く)特徴で、夏咲き品には多かれ少なかれあります。

同じ夏咲きの原種フルテスケンスの遺伝的関与が色濃く出た結果でしょう。

因みに花期は長く無いが早咲きで、原種フルテスケンスの影響が色濃くあると思われるその他の品種に、     絵姿、くす玉 がある。

 

これらの事を念頭において別な名のクローンを見てみたい。

老舗多肉植物生産販売店であった錦園より、スポットライトと名された交配品が出ている。

当時の説明には寂光系改良種、花期20日以上。とある。

(寂光=原種フルテスケンスの元個体名で、現在原種フルテスケンスを示す流通名)

まれに生理によっては二花になる場合を除き一茎一花である為、20日以上と言う意味はどう言うことか解らなかった。

その後にオリジナルクローンを栽培して意味がやっと解った。

葉数が増してきたら分け苗を作っておくのですが、花がチラホラチラホラと咲き揃う事は無く、元苗の葉数がある物もそうであった。

確かにチラホラと咲くのであれば、花期は長い訳です。

大抵の場合花付きの良い、悪い品種であっても花期はある程度纏まっている。

花付きの悪い品種でも幾つかの花芽は着くもので、咲き揃うと言う意味では揃っている。

だから花期を過ぎた物が未だ咲いていると言う印象は持たないものだ。

その点スポットライト、サマーレッドは花期が長い印象を持つ。

 

結論を言えば、両名前で呼ばれるクローンは同一のクローンだったのである。

長らく精査した結果、同じものでむしろ違いが判らない。

サマーレッドはスポットライトだったんです。

私には最初からこのサマーレッドと言う名前は突然目の前に現れた名前で、何か違和感があった。

またこの品種にも良く似たものがあって、

先の記事に書いた “ 聖火 ” がそれです。

開花すると花色に違いが見られるが、それでもよく見ないと判らないと思う。

葉姿が若干異なっているだけなので、花が無ければ見分けるのは難しい。

ざっと言えば  “ 聖火 ” は太く若干厚肉気味で、

“ スポットライト ” は、すぅ~として腰高。

その違いも栽培の仕方によってかなり縮まる。

実際に 聖火 を サマーレッド として販売されているのも、その逆も確認しています。

 

この様に実は同一クローンが2つ、3つの名で呼ばれ流通する物はかなり以前からあり、現在判る範囲でも幾つもある。

それに輪をかけて何回かこのブログ内の記事でも書いた様に、個体名である品種の名前の中には単一のクローンしか無いはずが、オリジナルによく似た複数のクローンが含まれていたりする。

こうなると膨大な流通する園芸品の中でオリジナル(出来た当初から似た物が無く名前と個体が合致している)を探すのは、大変難しい。

 

話を戻し、何故同一クローンに2つも3つも名前があるのか、来歴を探ります。

かつて色々な品種を競いながら作出し世に出してきた業者が集まっていた場所は、関東、甲信地方であったことは周知の事実です。

むしろ圧倒的でありました。

東海や関西地方でも触発された事もあったが、作出される個性的な品種(当時は)が、どんどん発表され販売された事で敵わないと思ったに違いない。

コレクションしたい人口は大きく膨らみ、それを賄うため東海や関西の業者が関東、信州に押し寄せた為、供給元もそれに対応した。

対応のし方にも問題があって、分け苗だけでは趣味家の欲求に応えられない事から、原種なら実生苗を作り園芸品は似た物を含めたり、葉姿のみでは初見な趣味家には見分けがつかない事を良い事に、品違いであろうと販売した。

(作出元で当初この様な事は少なかったとは思うが、業者間で互いの品種を得て管理していると品違いは多くなる傾向があり、作出元では無い業者のもとでは尚更多々あった)

ざっとこんな流れですが、じゃあ何故元々付いた名前を別な名前にして誰か流通させたのか?

これは人間の欲、名誉が関係しています。

既に作出されて名前があるにもかかわらず、名前を変え私が作ったものと偽り紹介して販売すれば、名誉的な満足感があるし高値で売れますからお金も入る訳です。

それまでは既存でも未だ未見の品種、新しい品種を関東、信州へ求めたが、名前を変え遠く関西地方で販売すれば趣味家はそちらにも目を向けざるを得ない。

今もそうだが、写真や画像も無く名前のみで販売するのだから聞いた事の無い名前を聞けば、趣味家は入手したくなったであろう。

そして名前のみが独り歩きする、独特な世界になってしまったのです。

 

名前で検索をかけると、名前、葉姿、花様の画像が様々出てきますが、その中には名前と花様の画像が一致せず品違いな物が多々あります。

園芸品専門のサイトでもそうですし、海外でも明らかな園芸品を原種フルテスケンスとして紹介しています。

画像は拡散しますから出来る限り調べアップしてほしいし、調べがつかなければ種名や品種名、個体名を断定して使うべきではない。

断定して使うという事はそれなりの根拠が必要で、それでも違ってる様な場合は再度検討や改める目を持ってもらいたいと、私は切望する。

 

今回は画像が一枚もないが、準備が出来なかったので文字のみとなってしまった。

時間があって思い立ったら加えてみたいが、何時になるやら。

ただ一刻も早く事実を公表したかった、只々その一点のみである。

 

 

 

 

 

 

 

Conophytum garden hybrid No.14

園芸コノフィツム  覚書き・No.14

“ 聖火 ” 

 

“ 聖火 ”  は、信州にあった錦園より発表された交配園芸品で、早咲きでまだ気温が高めな頃にしては赤さがある花を咲かせます。

 

交配から言えば、紫、桃色系の花色と黄色系の花色を持った個体同士の交配から、赤色系の花色は生まれる事が解っている。

しかし、精々明黄橙色〜橙までで、赤燈、濃赤色には簡単にはならない。

なので、実際それ程単純なものではない。

 

交配園芸品を親に使って狙った花色を作るのは意外と難しく、交配園芸品の花色は遺伝的に複雑に絡み合い、現在の個体の花色になっているからです。

野生品由来で、黄色い花、桃色花を咲かせている個体からセルフ実生すると、黄色い花、桃色花の持つそれぞれの個体を得られるし、極稀に白花品等の変わり物がでる。

通常はそうだが、交配園芸品はから得られる個体の花色は、その親からは誕生しない花色が出たりするのです。

 

これは何を意味するかと言えば、多様な花色の遺伝子を持っていながら、たまたま今の花色を咲かせているに過ぎないという事で、色々な花色を咲かせる多様性を現在既に

持っていると言う事なのです。

 

また花色は見分けがつかなくても、葉の形状や本姿で見分けがつくものがあれば、その逆もあります。

何れにしても札落ちや品違いになってしまうと見分けるのは困難な事は明らかで、その品種の発表当時の詳細な画像等は埋もれてしまって、私達の目に触れる事も無い為困難を極めます。

 

話を戻しますと、

販売カタログによれば “ 聖火 ” は、赤花早咲き、東京オリンピックに開花、紅紫花とある。

1964年、条件によるが6〜10月の間に初開花したと思われます。

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様々な栽培条件(気象、陽当り、地域、水やり管理等)によって開花時期はかなり変動しますから、必ずしも毎年同じとは限らない。

朝晩の気温が低くなる秋中盤では花色も冴えますが、まだ残暑のある8月中下旬では代謝が早く退色、一日花の様に終わってしまいます。

 

花色は花弁が伸びきる前の咲き出しはかなり赤く伸び切ると薄くはなるが、これも条件でいわゆる赤さを感じる赤花です。f:id:S-kiemon:20220221070535j:image

画像は夏季の水やりを止めている間に、蓄えている水分で生育を開始し開花したものですが、

気温が高いにも関わらず咲き出しは結構赤いですね。

咲き進んだ花を観察すると中心部の花弁には、複数の花色が重なって表現されている事が解ります。

桃紫の上に朱色が重なる事で赤いと呼べる花を持っています。


長らくこの “ 聖火 ” と同様に観察を続けた花があります。

10数年前に海外から入手した “ seikoha ” と名されたクローンです。

レッドフラワーと解説された物だったのですが、この名前が何か日本の交配種に付いた個体名ではないか?  と思いながら購入しました。

 

意味を漢字に変換できない事や該当する名前がない事から、よくある事例を思い出しました。

日本語を海外の人が発音をローマ字に変換する際に間違える、またはローマ字に直したメモ、札に書いた字が雑で見間違える。

これらはスペルを日本人が見間違う事や発音をカタカナにする等、逆もある変換ミスです。

 

では “ seikoha ” は何の間違いか?

これが “ seika ” = “ 聖火 ” だったのです。

毎年観察し続けた結果、同一のクローンである事は間違いないです。

今年の正月に販売店にこの旨を伝えて訂正をする様に要請しました。

その際に由来、来歴を聞いたのですが、

「かなり昔に来店した客らかの物だろうと思うが、正確には判らない」との回答であったが、

“ 聖火 ” の様な赤い花は、野性原種やナチュラルハイブリッドを珍重する中で、人工交配とは言え目を引いたに違いないです。

海外ではすっかり “ seikoha ” で流通し、栽培している方々が画像をアップしているので、ワールドワイドなツールでも、栽培している海外の方に向け訂正を呼びかけました。

 

国内で私が確認した物を書き留めておきたいと思いますが、皆さんが知らず知らず入手した物の中に 違う札が付いた " 聖火 " があると考えます。

" 聖火 " の同一クローンが他の名前で流通していた事例では、ホームセンターで見かけるコノフィツム一色の札が付いた物の中にも稀にあるのを確認しています。

偶に札が色々な品種が販売されている中で、

たまたま " くす玉 " の札が付いていた物があり、一瞬で違う事はわかり購入して精査したした結果そうでした。

たまたま " くす玉 " と言う品種の札が付いていましたが、勿論違う名の札が付いている事もあるでしょう。

 

各愛好家が販売サイトで販売する場合や生産者のサイト、店頭販売で見かけた物では、

" 赤花世尊 " での販売がありました。

5、6年前から現在に至るまで、販売サイトにて時折この名前で販売されている物を見かけます。

一目見て違うのは理解出来たのですが、オリジナルと比較する都合があり早い段階で入手して精査しました。

結果 " 聖火 " である事が判明しましたので、機会があれば伝える必要があります。

因みに " 赤花世尊 " とされた物は、原種由来でfrutescens 種 でsalmonicolor として輸入されたものを " 赤花世尊 " と呼んだ物ですから、園芸品ではありません。

現在も極僅かながら当時のsalmonicolorの名で輸入個体が残っていますが(古来品の" 寂光 " = frutescens の方が残っています)、その後にfrutescensで輸入された個体や実生された物の方が見受けられます。

そもそも年数を重ねる度に潅木状になる葉姿にはあまり人気が無い(姿が乱れやすい為)ので、栽培個体は少ない様です。 

" 聖火 " には見られない特徴ですが、この様な特徴は他の園芸品種にも見られます。

ある段階に frutescens を交配親に使用し、その血が表面化した結果でしょう。

" 黄金の波 " や " 絵姿 " はその代表で、15年植え直しや仕立直し(葉挿し)をしなかったものは、茎が10cmも立ち上がりました。

 

" 浮世絵 " と言う品種でも販売されいるのを見ました。

" 聖火 " とは花色では見分けが付きづらいですが、葉姿はかなり違うので判別がつきます。

あとは " サマーレッド " と言う名前でもよく流通していますね。

この " サマーレッド " と呼ばれる個体の中には良く似たもので別個体が有りますから、全てが " 聖火" と言う訳ではありません。

これら " 聖火 " と混同されている

" 浮世絵 " 、" サマーレッド " に就いては別な機会でいづれ解説します。


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以上、" 聖火 " の解説を終わります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

センペルビウム・あれこれ 8 Sempervivum et cetera

今回は成長点に異常が起こり線上に果てしなく増えていく綴化(てっか)と言う現象を見てみます。

植物全般にある現象ですが、原因について幾つか考えられているようで、場合によって様々とされています。

綴化と帯化は同じ意味で字の如く成長点が列を成して帯の様になる、または茎や葉柄が列に癒着して一枚の帯状になった様子からです。

石化は綴化、帯化とは少し違う現象で、遺伝子の異常が原因で引き起こされる奇形です。

 

綴化は成長点が点では無く線となって何処までも増えていく以外に異常は無く、主に茎、花柄に起こります。

センペルに限って言いますと、

長らく植え替えないで育った時、役目を終えた葉がびっしりと根元にたまっています。

それを取り去ると短いまたは長い茎が現れます。

通常その茎は円筒でその周囲には葉が輪生又は螺旋状にあります。

しかし綴化ではその茎は平たくなっていて先は扇状に時に蛇行した帯状に広がっています。

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最近入手した綴化品で、どちらも似たりよったりで現在は小さく見分けはつかないです。

綴化以外にこれと言った特徴もありませんが、まだ小さい為に似ているだけであって欲しいものです。

 

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次の綴化はアルファと言う品種で入手したものですが、入手した時には既に大きく成長し綴化も次の段階に移り変わる直前でした。

間もなく画像の右辺がモリモリしてきました。f:id:S-kiemon:20220808210112j:imagef:id:S-kiemon:20220808210127j:image

それから暫くしてそのモリモリしたところは花茎の綴化だと判り、開花したのが上の画像です。

何かカタツムリみたいな感じになっていて、不気味な姿です。

 

綴化は成長点が点では無く線となって何処までも増えていく以外に異常は無く、主に茎、花柄に起こります。

センペルに限って言いますと、

長らく植え替えないで育った時、役目を終えた葉がびっしりと根元にたまっています。

それを取り去ると短いまたは長い茎が現れます。

通常その茎は円筒でその周囲には葉が輪生又は螺旋状にあります。

しかし綴化ではその茎は平たくなっていて先は扇状に時に蛇行した帯状に広がっています。

皆さんがよく御存知なのは鶏頭、ケイトウと呼ばれ流通する物でしょう。

近年は小さな種類または品種が入っていますが、身近に綴化現象を観察するのに適しています。

一年草なので種子繁殖ですが、綴化の品種も種子繁殖である為に花は正常と思われますが、詳細に観察すると面白い私はよく見た事はありません。

主軸の綴化が著しい物はもしかすると花は奇形で、主軸の葉腋から伸びた小さな花が正常に結実しているのかもしれません。


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花が咲き進んだ頃根元の葉が枯れてきたので、撮影の為取り去った物です。

扇状に広がって葉がついていた痕跡が鱗の様になっていて、葉数の多さが判ります。

また成長点が扇状に広がる前の茎は円筒ですが、葉の痕跡は密でありその頃の姿は丁度最初に紹介した Dusky や Fuzzy Wuzzy の様なすがたであったと思われます。

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通常のセンペルは開花するとその茎は枯死するので脇芽が発根して生を繋ぎますが、綴化を繁殖させるには人為的にやるのが一般的です。

幾つかやり方を紹介します。

① 線状に連なった成長線を幾つかのブロックに 切り分け、切り口を乾燥させた後(風通し良      く明るい影で5〜10日)用土に伏せる。

そして発根を待って発根したら用土に差し込み活着を待ち、その頃から少しずつ水遣りをする。

発根してからの置き場は、真夏は遮光下でそれ以外は日向が良いでしょう。

② 線状にある綴化部を残す様に茎から切り取    り切り口を乾燥させた後、①と同様の処置をする。

 

①、② とは殆変わらないが、ブロックに切り分けた場合のいっぺんに得られる個体数に違いがある。

② は大きな綴化個体を得られ、更に奇妙な綴化を作りたい人向けのやり方です。

しかし多くを切り分けた場合、乾燥の具合や乾燥の過程でその後に発根せず枯死するリスクもある。

特に②の方法では、全てが繋がっている為枯れが入ってしまうと全滅するリスクが高く助からない場合もあるので、オススメはしない。
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普通のセンペルも開花すると高芽が花に混じって、または花茎の付け根付近に着く事があります。

画像の様に、綴化ではかなりの数の高芽が着いている事がありますが、このままではやがて枯れますから(種子が出来る出来ない関係なく)、

挿し芽をしない手はありません。

しかし、この高芽を普通に挿して物になる確率は非常に低く、無菌培地にでも挿さない限り個体を得る事は殆ありません。

(花茎元に発生した高芽はその限りではありません)

 

以上駆け足で紹介しましたが、過去にやった色々な画像がない為、何れこの個体を元にした画像を掲載したいと思います。

 

2022・9・24

高芽をカットした挿し芽のその後です。

以前やった時には全て全滅してしまいましたので、失敗は繰り返さない為に別な方法を試しました。


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お判りでしょうか、

細い根が出ていますね、しかも葉が展開している物もありこれは成功したかも?しれませんが、まだ予断はゆるさない状況です。 

カットしてから転がしてその芽が生きる力があるのか否かを見てみます。

生きる力が無いものは、痛んできたり干乾びてしまいます。

あるタイミングで発根が認めら、萎びた葉に正気が戻ってきたらシリンジして様子を見ます。

そうなる前には決して水やり(シリンジする)はしません。

特に湿度のある時植物は敏感に感じとって、生きる力があるものは根を出して水分を得ようと頑張ります。

その前に水やり(シリンジ)をするのは、加湿になり雑菌の温床になり逆に迷惑な事です。

 

2023・2・28

その後です。

苗は得られたのですが、結果的にはあまり良くありません。

現在綴化した芽は1つしかなく、後は普通の芽の様です。

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まぁ高芽は挿す前から普通の芽だから、それが活着したからと言って綴化になる訳はありません。

綴化の部分を切り分けなければ綴化を得られないのだか、開花する前でないとそれを普通に活着させるのは難しい。

一つだけですが残ってくれたので、これをある程度大きくしたらバラバラにして個体数を殖やそうと思います。

また高芽から再生した普通の芽も、ある時期から急に綴化しだしたりする事を期待しながら、栽培を継続してみたいと思います。f:id:S-kiemon:20230228192737j:image

 

2023・4・20

この2ヶ月の間に随分と成長したので、その後です。

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綴化個体はもりもりしてきて他の個体も大きくなり脇芽を出す様になってきた為、そろそろ植えかえを考えなくてはなりません。f:id:S-kiemon:20230420075033j:image

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綴化個体は一つだと思っていたらもう一個体出来た様で良かったです。

注意深くまた鉢を覗いていたら、面白い現象が起きていたので紹介します。

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この鉢には花茎に付いた高芽を伏せておきましたが、一つ一つの芽を切り分けるのは手間なのでそのままにした物に当然花が咲いた花茎もありました。

画像はその開花した花の跡に何故か高芽が出現したもので、その高芽の周りに種子鞘がぐるっと一周ある。

なんだろうか?

種子が実っている事はないと思われますが、何とも面白い現象です。

 

 

 

 

 

 

 

 



ホワイトスロアネア 腐る Whitesloanea crassa

この植物は最近になり国内でも沢山の実生苗が流通する様になりました。

実生苗は海外の方が先に成功していて流通する様になりましたが、その反面過湿になりがちな用土を使用する結果、腐敗菌による腐れまたは原因不明な枯死がある為、栽培個体数はある程度あるものの普通に流通し安価とはなっていません。

国内では業者、趣味家問わず高値を維持しようと流通個体数を調節しており、栽培個体数は増える傾向にありますが普及と言われるには至っていません。

前述の通り原因不明の腐りも相まって、入手にはなかなか手を出しにくい状態にあります。

 

ホワイトスロアネアと言う植物の由来、来歴そして現在に至るまでの様々な事柄は、興味があれば簡単に調べがつきますので調べてみると面白いです。

ここでは割愛しますので、この植物を栽培または入手しようとしている方は、是非調べる事をお勧めします。

いつ誰の手によって発見され、どの様な経緯で栽培され繁殖を経て現在私達の目に触れてる様になったのか。

植物栽培よりも楽しい事かもしれませんよ。

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私が種子から栽培した物になりますが、10年程前から栽培してこの実生苗と同時に得た物を含め10本は栽培して来ました。

なかなか気に入った葉姿にならないもので、実生苗も持っているのに他から買い求めたりしましたが、結局のところどの個体も理想にはなりませんでした。

学名のラテン語で  crassa とは厚いを意味する名で、他の属から比べて明らかに太い葉を持つ植物で、単頭で双頭になる事は稀で通常ありません。 

自生地では大小様々な褐色の礫岩地に擬態する様に自生し、直立してはおらず横に倒れている画像が検索で見つかります。

自然環境での寿命は判りませんが、長期で栽培すると葉の先端が吐出し全体が四角錐になります。

通常四角の稜線が成長点に向いやや窪んでいるのですが、四角の稜線がそのまま滑らかに尖る様になっています。 

この様になった個体は一度しか見たことがありませんが、一辺が10cm以上もあるそれはそれは巨大な個体でした。

高さは30cmはあろうかと言ったところです。

高さで凄かったのは接ぎ木をした物で、枝をうった8〜90cmの物ですね。

太さは5〜6cmでしたが、何処までも伸び上がり根元は2〜3本の枝を出していてとても壮観で、アサガオ等をあんどん仕立てにする支柱の中で栽培されていました。

 

また開花する位の個体では葉の付け根付近の四隅の稜に花座(花芽が着く台座の様なもの)が多数付いて、古い個体程四方の稜線に沿ってビッシリと着きます。

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さてここからがお題の腐るです。

画像の通り葉の付け根が大きく抉られています。

先の画像の反対側ですが、ホワイトスロアネアは前触れも無く突然腐るのです。

苗の頃は全くと言って良い程腐ることはないのですが、開花する様になる頃から腐るリスクは大きくなります。

何故なのか未だにわかりませんが、ネット上でも同様な事柄を見つける事が出来る事から、栽培上何か原因かあるのですが、それが何なのか掴みきれていません。

恐らく過湿である事が原因の様なのですが、私はそれとは違う観点から考察中です。f:id:S-kiemon:20220803231508j:image

発見した状態が早かったので、腐りが入った所をある程度綺麗にして殺菌剤の散布をしました。

一度散布して、真夏の時期なので直ぐに乾きますから菌が未だ生存していて腐りが進むようなら、また散布します。

出来るだけ回数毎に違う殺菌剤の散布をお勧めします。

今回は何とか腐りが止まり助かりましたが、発見が遅れて茎に腐りが進行すると先ず助かりません。

でも腐りが茎や葉の元部で止まった場合は、キョウチクトウ科の植物体または旧ガガイモ科の植物を台木とした接ぎ木が出来るので、ダメ元で殺菌処理を諦めないのも一つの手ですね。

 

兎に角未だに高価な植物ですから、簡単に諦めない事が肝要ではないでしょうか。 

十分に乾燥してから傷口を保護するトップジンを塗り様子を見ていますが、最低でも毎日様子を確認した方が良い植物の一つです。

多肉植物は2時間前に見た時は何ら問題は無かったのに、全体的に腐りがまわり溶け崩れる寸前だったなんて何度も経験してますから、皆さんもお気を付けて遊ばせ。